ロンドン・ドライジンとは? 《ジン⑦》
■ロンドン・ドライジンとは?
EUが定めるジンの分類の1つで、もっとも規定が厳しいジンです!
■ロンドンでつくらなくても、ロンドン・ドライジン!
ちなみに、「ロンドン・ドライジン」とは、地理的表示(GI)ではなく、ジンの規格名称で、ジンのタイプを示す名称です。
ロンドン市内で製造されたジン、という意味ではありません。
他の地域でつくられていても、規格に適合していれば「ロンドン・ドライジン」に属します。
※ ちなみに私はわかりやすいように「ロンドン・ドライジン」と、ロンドンとドライジンの間に「・」を入れていますが、正式にはワンフレーズなので「ロンドンドライジン」と「・」を入れない方が正しいと思います。
同じような、「タイプを示す名称」としては、『飛騨牛』があります。
これは、「飼養期間が最も長い場所が岐阜県である」という規定です。(もちろんその他の規定もあります)
なので、飛騨市や飛騨高山エリアでなくても、岐阜市でも多治見市でも、岐阜県内で飼育されれば『飛騨牛』と名乗ることのできる牛肉の「タイプを示す名称」です。
飛騨牛|飛騨牛銘柄推進協議会 (hidagyu-gifu.com)
あと、バーボンも、「ケンタッキー州」というイメージが強いですが、「それはケンタッキー州でつくられることがほとんどだった」という背景があるからで、「ケンタッキー州でつくられなければならない」というわけではありません。
他の州でつくられていても、バーボンの定義(コーンを51%以上使用 / 内面を強く焦がしたオークの新樽で熟成etc.)に適合していれば、バーボンと名乗ることができます。
逆に、法的な定義ではありませんが、テネシー・ウイスキーの場合は、「テネシー州でつくられたもの」に限定されます。
(そのほか、サトウカエデの木炭でろ過しなければならない、など、バーボン+αの規定となっています。)
■話を戻してロンドン・ドライジン
話を戻しますが、ロンドンでつくられていなくてもロンドン・ドライジンを名乗れるわけですが、「ロンドン」と名前がつくからには、やはりこのタイプのジンは、
「ロンドン」周辺でつくられていた(誕生した)
という歴史があります。
そして、「ドライジン」=「辛口ジン」という名称。
簡単にいうと、
が、ロンドン周辺で誕生して、
ロンドンのジンって、辛口で美味しいわぁ。
とヨーロッパ中の噂になったので、ロンドン・ドライジンというフレーズが誕生しました。
それでは、それまでのジンとはどういうものだったのでしょうか?
■ジンの原型はオランダのジュネヴァ
ジンに通じる原型=ジュネヴァが生まれたのはネーデルランドです。
もともとは、ワインにジュニパーベリーを入れた薬用ワインが存在して、医師が常備していたようです。
その後、ワインを蒸溜したもの(いわゆる木樽熟成させていないブランデー)に、ジュニパーベリーを組み合わせるようになります。
ただ、ぶどうは寒さに弱く、不作が続くこともあります。
そこで、寒さに強いライ麦や大麦を原料にしたスピリッツ(ブレーンブランデー=今のグレーンスピリッツ)に、ジュユニパーベリーを合わせるようになります。
ただ、このころのスピリッツは、「まだ荒々しい味わい」で、激マズい・・・
ハーブや砂糖や、なんやかんや入れて飲みやすくして、ジュネヴァが誕生したようです。
そうすると、楽しく酔っぱらえるわけで、次第に「医療用の薬酒」から、「嗜好品としての至酔飲料」として広まりました。
■ジュネヴァ(オランダ)からオールド・トム・ジン(イングランド)へ
1689年オランダ総督だったウィリアム3世が、名誉革命後にイングランド国王として迎えられると、ジュネヴァもイングランドに伝わり「これウマいね!」と人気に!
やがてイングランドでは愛称的に短縮されて「ジン」と呼ばれるようになります。
ただ、この時のジンはスピリッツの雑味をごまかすため加糖されていたため、オールド・トム・ジンに代表される「甘味の強いジン」でした。
(オールド・トム・ジンについては、また別途でご紹介します。)
そして、18世紀半ばになると、粗悪で安価なアルコールを使用し、ジュニパーベリーに似た香りをつけた偽物の混合ジンが、ロンドンの貧困層に蔓延するようになります。
混合ジンは、パンやミルクよりも安価だったこともあり、水事情が悪かった当時、
という負のスパイラルができてしまいます。
この時代は、「ジン・クレイズ」と呼ばれ、アル中の溢れる悲惨な状況だったそうです。
その後、ジン製造者への規制が強化されたり、ラム酒が人気になったり、ポーターという黒ビールが人気になったり、農作物の不作でグレーンスピリッツの蒸溜を一時的に禁止したりと、いくつかの要因が相まって、18世紀後半にかけて、狂気のジン時代は沈静化へと向かいます。
■スピリッツ品質向上でドライジンが登場!
19世紀になると専門の蒸溜業者の努力により、スピリッツ自体の品質が向上します。
そのため、それまではベーススピリッツの「質の悪さ=雑味」をごまかすために加糖されていたオールド・トム・ジン(甘いジン)は、「消費者の嗜好に合わせて甘みがつけられる」ようになります。
この「マイナスをゼロにする」ために加糖するのではなく、「ゼロをプラスにする」ために加糖するというのは、同じ加糖でも、かなりステージが違う段階だと思います。
そして、1831年、連続式蒸溜機を開発したイーニアス・コフィ(アイルランド)が特許を取得。(いわゆるカフェ式スチル)
連続式蒸溜機が商業ベースで使われるようになると、ウイスキー業界とジン業界に革命をもたらします。
連続式蒸溜機は、保守的なスコットランドのウイスキー業界より先に、イングランドのジン業界に導入されました。
連続式蒸溜機からつくられる雑味のないクリーンな味わいのスピリッツは、ボタニカルと砂糖の繊細な香味バランスの調整を可能にします。
こうして、ボタニカルも砂糖の甘みもたっぷり効かせたジュネヴァやオールド・トム・ジンよりも、ボタニカルの香味を重視した、軽快なドライジンがイングランドの主流となります。
(ただ、当時は加糖が全くされていないわけでなく、多少は加糖されていたそうです。)
■こうして
雑味の少ないライトな風味を持つジンは、それまでのオールド・トム・ジン(甘いジン)と区別するため、ブリティッシュ・ジン、あるいは主要な生産地のロンドンの名をとってロンドン・ドライジンと呼ばれるようになったのです。
ちなみに、単にロンドンジンと呼ぶ場合もあります。
(これ、どこを調べても明確に書いてある資料を見つけられないのですが、ロンドンのジンは「ドライタイプ」で有名なわけで、ロンドン・ドライジンと同じものを指す=いわば短縮形、という解釈で良いと思います。)
そして今では、甘みの強いジンは少数派で、ジュニパーベリーを中心としてボタニカルの風味を感じるドライタイプのジンが、大半を占めるようになっています。
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