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《焼酎vsウイスキー》蒸溜の加熱方法の違い 『ニッカ・ザ・グレーン』⑨
■「ニッカ・ザ・グレーン」について解説する9回目です。
・ニッカウイスキーがチャレンジングな商品を限定発売する、ニッカ・ディスカバリー・シリーズ《第三弾》で、2023年3月、「ニッカ・ザ・グレーン」が発売された。
・これは複数のグレーン蒸溜所の原酒をブレンドした「ブレンディッド・グレーンウイスキー」であり、非常に珍しいスペック。
◇ニッカ・ザ・グレーン 4蒸溜所/7原酒
《蒸溜所1》ニッカ・宮城峡蒸溜所
①宮城峡カフェモルト
②宮城峡カフェグレーン
《蒸溜所2》ニッカ 旧・西宮蒸溜所
③西宮カフェモルト
④西宮カフェグレーン
《蒸溜所3》さつま司蒸溜蔵
⑤未発芽大麦グレーン
⑥コーン&ライ・グレーン
《蒸溜所4》ニッカウイスキー門司工場
⑦未発芽大麦グレーン
「焼酎もウイスキーも同じ蒸溜酒なので、焼酎用の単式蒸溜器でも、(できあがる酒質は別として)ウイスキーをつくれますよ!」
「そうはいうものの焼酎とウイスキーの蒸溜器には違いがあって、蒸溜器の素材や蒸溜時の気圧が違いますよ!」
というお話をしました。
今回は、蒸溜器の「加熱方法の違い」についてご紹介します。
◇焼酎の単式蒸溜器と、ウイスキーのポットスチルの違い
① 蒸溜器の材質
② 焼酎では減圧蒸溜も可能
③ 加熱方式
■《焼酎vsウイスキー》加熱方式の違い
まず、ウイスキーを単式蒸溜器(ポットスチル)で蒸溜する際の加熱方法です。
大きく分けて2種類あります。
① 直接加熱=直火加熱
② 間接加熱(≒スチーム加熱が多い)
■蒸溜パターン① 直火加熱
直接加熱とは、『ヤカンに火をかける』イメージそのものです。
ポットスチルというヤカンを、下から火で熱します。
このかける『火』にも色々な種類がありますが、ガスコンロのように『ガス』で火をかけるケースが一番多いです。
その他には、蒸気機関車の熱源のように『石炭』を使う場合もあります。
これは1900年頃のスコットランドで多かったようです。
1919~20年に竹鶴政孝がスコットランドで学んだ時には、石炭直火がまだ主流だったようで、ニッカ余市蒸溜所はまだ石炭直火で加熱を行っています。
今となっては、世界中を見渡しても、石炭直火で加熱しているケースは、ほとんどありませんので、現役でそれを行っている珍しい事例といえます。
また、クラフト蒸溜所の先駆け「ガイアフロー静岡蒸溜所」では、「世界で唯一」ともいえる『薪』を熱源に直火蒸溜を行っています。
(正確には、間接加熱と併用)
日本では焼酎にはじまるナショナルスピリッツ(蒸溜酒)の歴史がありますが、それは薪を熱源にしてきたと思われます。
この日本の伝統的なスピリッツ蒸溜の熱源である薪で、スコットランド発祥のポットスチルを加熱するというのは、とても面白いアイデアですね。
私がガイアフロー静岡蒸溜所見学に行った際には、まず建屋に入る前に、屋外に置かれた「多くの薪」が、非常に印象的でした。
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ちなみに蒸溜所見学の説明では、薪直火用の釜については、世界でどこの蒸溜所も行っていないため知見がなく、「ピザ釜」の技術を応用したと説明を受けました。
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もはや、
「日本」×「スコットランド」×「イタリア」
の融合!
面白いですね。
■蒸溜パターン② 間接加熱
間接加熱もいくつかの種類がありますが、一番ポピュラーな水蒸気による『スチーム加熱』についてご紹介します。
これは、ポットスチルに中に「導管」入れて、その中に「スチーム=水蒸気」を通すことで加熱する方法です。
直火に比べ、温度コントロールがしやすく、20世紀後半からはこの「スチーム間接加熱」が、ウイスキー業界の主流となっています。
■石炭直火加熱とスチーム間接加熱との比較
一番の違いは「加熱温度」です。
《直火加熱》 約1,000度
《スチーム加熱》 約130度
この温度の違いから、できあがる原酒の酒質にも違いが生まれると言われています。
《直火加熱》高温によるトースト香&重厚な酒質
《スチーム加熱》すっきりとした軽やかな酒質
ただ、直火は高温のため、スチル内でモロミが焦げ付く場合があるなど、火加減に熟練の技が必要とされるそうです。
また、直近では二酸化炭素排出=SDG’sの観点からも、少し避けられている感もあります。
そうは言うものの、昔ながらの「直火加熱」による味わいに憧れる蒸溜所は多く、イチローズモルトの秩父蒸溜所も第1蒸溜所(2008年蒸溜開始)=間接加熱、第2蒸溜所(2019年蒸溜開始)=直火加熱となっています。
■焼酎蔵による第3の加熱方法
スチーム加熱の1種ということになりますが、焼酎蔵では『蒸気吹き込み式(スチーム直噴式)』という加熱方法があります。
これは、モロミの中に、水蒸気を直接ボコボコと吹き込む加熱方法です。
スーパー銭湯の「ジェットバス」みたいなイメージですね。
芋焼酎などの「粘性の高いモロミ」を、焦げ付かせずにスムーズに加熱するために考えられた加熱方法です。
モロミを水蒸気で吹き飛ばしながら加熱するため、その水蒸気がモロミの中に入りこみ、モロミの量が投入時よりも約10%程度増えるとのこと。
ウイスキーづくりには、用いられたことのないやり方です!
◇蒸気吹き込み式
蒸溜酒製造(焼酎・ジン・アブサンetc.)のパイオニア、鹿児島県「佐多宗次商店」さんのHPで、詳しく解説されています。
直接加熱蒸留器について|蒸留について|佐多宗二商店 (satasouji-shouten.co.jp)
ちなみに、減圧蒸溜では、蒸溜器内を「低い気圧でキープ」しないといけないため、「蒸気吹き込み式」での加熱はできないみたいです。
そのため、ジャケット式・間接加熱というやり方で、蒸溜器の「周囲」に蒸気(スチーム)を巡らせて加熱します。
このように『スチーム』を熱源に使うとしても、『焼酎』はジャケット式にモロミを「外側から温める」のに対して、『モルトウイスキー』は釜内に導管を通すことでモロミを「内側から温める」という違いがあります。
とってもマニアックですが、こういう製法の違いって面白いなーと思います。
■蒸気吹き込み式で加熱したウイスキー
麦焼酎:中々、芋焼酎:㐂六などで有名な黒木本店ですが、2019年に尾鈴山蒸溜所を開設して、ウイスキーづくりに参入しています。
「和酒づくりとウイスキーづくりの融合」という点において、非常に面白いチャレンジをいくつもしています。詳細については、いつかまた記事にしたいと思います。
その尾鈴山蒸溜所のチャレンジのひとつとして、「蒸気吹き込み式」でのウイスキー蒸溜があります。
初溜を「蒸気吹き込み式」で蒸溜しているそうです!
直接蒸気を吹き込んで蒸留…焼酎づくりの手法を生かし県内初のジャパニーズウイスキー誕生【宮崎発】|FNNプライムオンライン
■では、ニッカ・ザ・グレーンでは?
「さつま司大麦グレーン原酒」がつくられたのは、桜島を望む鹿児島県姶良市のさつま司蒸溜蔵。(中略)こちらはもろみに直接水蒸気を吹き込む方法で2018年に蒸溜され、アメリカンオークのリチャー樽で熟成されている。
March27.2023 ウイスキーマガジンWEB版
7種類の原酒が溶け合うニッカのグレーンウイスキー | WHISKY Magazine Japan
来たー! 『蒸気吹き込み式』加熱!!
ニッカ・ザ・グレーンに使われているグレーン原酒のうち、焼酎蔵である「さつま司蒸溜蔵」「門司工場」でつくられている原酒の『蒸溜』には、以下のような「焼酎づくり」がミックスされているわけです。
◇さつま司蒸溜蔵のグレーン原酒
焼酎ならではの製法=『蒸気吹き込み式』
◇門司工場のグレーン原酒
焼酎ならではの製法=『減圧蒸溜』(初溜)
掘り下げれば掘り下げるほど面白いスペックですね、ニッカ・ザ・グレーン。