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ジンのボトリング。最後にアレを加えます! 《ジン⑨》

■ジンの3つの分類方法

◇ジンの分類①(EUの法律上での規定)
 ①ジン(≒コンパウンド・ジン/バスタブ・ジン)
 ②蒸溜ジン=ディスティルド・ジン
 ③ロンドン・ドライジン

◇ジンの分類②(再蒸溜でボタニカルの香りの添加する製法の違い)
 ①浸漬法(=スティーピング法)
 ②ヴェイパー法(=ヴェイパー・インフュージョン法)

◇ジンの分類③(仕上げに水で希釈するのみか、どうか?)
 ①ワンショット
 ②マルチショット

今回は、「ジンの分類③」のワンショット・マルチショットについて、ご紹介します。


■ビーフィータージン

ワンショットとマルチショットを説明するため、まずロンドン・ドライジンの代表選手「ビーフィータージン」の製法についてご紹介します。

まずは、ビーフィーター豆知識。

◇ビーフィータージンの名前の由来
ビーフィーターという兵隊さんが、ボトルに描かれているから。

◇ビーフィーターとは?
ロンドン塔(ロンドンにある要塞宮殿)を守る兵隊さん(近衛兵)のこと。

◇なんでビーフィーターというの?
ビーフィーター
 = BEEFETER = BEEF + EATER
 = 牛肉を食べる人

ロンドン塔を守る兵隊さんは、その昔、国王主催のパーティーの後に、残った牛肉を持ち帰って食べて良いという特権があったので。


■ビーフィータージンはどこでつくられているの?

《答え①》
ロンドン(イングランド)のビーフィーター蒸溜所でつくられている。

スーパープレミアムロンドンドライジン ビーフィーター -BEEFEATER- サントリー

ビーフィータージンは、2008年にロンドン市内に約200年ぶりにジン蒸溜所が開設され、クラフトジンビームが巻き起こるまでは、ロンドン市内で唯一のジン蒸溜所でした。

なので、この答え①が模範的な解答となります。

ただ、実は答え②③が存在するので、頭が混乱します・・・

《答え②》
グラスゴー(スコットランド)郊外のキルマリッド工場でつくられている。

《答え③》
グラスゴー(スコットランド)のストラスクライド蒸溜所でつくられている。

おい! ②と③は、何なんだ!! 
解説します。


■キルマリッド工場

キルマリッド工場は、ビーフィーター・ブランドを持つペルノリカールの工場で、「ブレンディング」と「ボトリング」を行う工場です。

ペルノリカールの持つ超有名ブレンディッド・ウイスキー「バランタイン」も、この工場でブランドされ、ボトリングされています。

つまり、ロンドン市内のビーフィーター蒸溜所で、ボタニカルを漬け込んで再蒸溜されたジン原酒は、ロンドン(イングランド)から、グラスゴー郊外(スコットランド)まで持ってきて、巨大なボトリング施設で、瓶詰めされているわけです。

ちなみに、ボトリング施設は非常に高額なため、「蒸溜所にボトリング施設を併設」しているケースの方が少ないので、「移送して瓶詰め」は、珍しいことではありません。

なので、「ビーフィーターはどこでつくられているの?」という質問に対して、
「グラスゴー郊外のキルマリッド工場でボトリングされている」
と答えることも可能なわけです。


■ストラスクライド蒸溜所

ウイスキーに詳しい方なら、ペルノリカール社のグレーンウイスキー蒸溜所として、ご存じかも知れません。
例えば、バランタインにブレンドされるグレーンウイスキーは、ここでつくられています。

一方で、ストラスクライド・グレーンウイスキー蒸溜所は、グレーンウイスキーだけでなく、グレーンスピリッツもつくっています。

ジンをつくる場合、「ペーススピリッツにボタニカルの香りをつける」わけですが、その時に使うベーススピリッツは、ジン蒸溜所で製造するよりも、「連続式蒸溜機でニュートラル・グレーンスピリッツ」をつくっている専門の蒸溜所から「仕入れてくる」ケースがほとんどです。

ジンの「ベーススピリッツ」とは (ginlab-japan.com)

そして、ロンドンのビーフィーター蒸溜所でつかっているベーススピリッツは、このストラスクライド蒸溜所でつくられた、英国産小麦をベースとしたニュートラル・グレーンスピリッツなのです。

ビーフィーターの親会社は現在ペルノリカール社で、同社の集中ボトリングセンターでビーフィーターのボトリングも行っているのだ。グラスゴーには同社のストラスクライド・グレーンウイスキー蒸留所もあり、当然、ベーススピリッツもそこが造っている。

ウイスキーガロア Vol.14 June 2019 P79
発行:ウイスキー文化研究所

というわけで、「ビーフィーターはどこでつくられているの?」という質問に対して、
「グラスゴーのストラスクライド蒸溜所のニュートラル・グレーンスピリッツを使っている」
と答えることも可能なわけです。


■ビーフィータージンの製造の流れ

① グラスゴーのストラスクライド蒸溜所でつくった、小麦ベースのAlc.96%のニュートラル・グレーンスピリッツを、ロンドンのビーフィーター蒸溜所に搬入。

② ビーフィーター蒸溜所でAlc.96%のスピリッツに加水してAlc.65%にした後に、ボタニカル9種を漬け込み(浸漬法)、再蒸溜をして、Alc.85%のジンの原液をGET。

③ Alc.85%のジンの原液を、タンクローリーで、グラスゴー郊外のキルマリッド工場へ運び、ボトリングをする。

ちなみに、②の再蒸溜の際、ウイスキーと同様にヘッドとテールはカットします。

ウイスキーの場合、このヘッドとテールは次回の再溜に回します。
ジンの場合は、原料アルコールとして業者に売るそうで、香水などの原料になるそうです。この点でもジンと、香水やアロマオイルって、つくり方が似ていますね!

ジンの香りづけ 2種類の製法 《ジン⑧》|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)


■やっと本題に入ります!

で、最終工程のキルマリッド工場でのボトリングについて、「ん?」と感じる記述があるので、引用します。

ロンドンのビーフィーター蒸溜所には瓶詰め設備はなく、蒸溜されたジンはジン・コンセントレートの状態でスコットランドのグラスゴー近郊にあるキルマリッド・プラントに送られ、そこでニュートラル・スピリッツとブレンドし度数を調整して瓶詰めされる。

稲富博士のスコッチノート 
第83章 ロンドン・ジン-2ビーフィーター

稲富博士のスコッチノート 第83章 ロンドン・ジン-2ビーフィーター [Ballantine's] (ballantines.ne.jp)

おい!

最後に、もう一回、ニュートラル・スピリッツを加えるんかーい!!

再び、ウイスキーガロアから引用↓

ビーフィーターの現在の売上げは年間300万ケース(本数にして約3,200万本)。原液はそのままボトリングされるわけでなく、ニュートラルスピリッツを加えて行われる。大手のメーカーが採用している“マルチショット”という製法で、EUの法律ではロンドンジンも、蒸留後に農産物由来のニュートラルスピリッツを加えることが許されているからだ。

ウイスキーガロア Vol.14 June 2019 P79
発行:ウイスキー文化研究所


■ワンショットとマルチショットの違い

◇ワンショット
ボトリングの際に、ジン原液に加えるのは「水」だけ。

◇マルチショット
ボトリングの際に、ジン原液に加えるのは「水」と「ニュートラル・スピリッツ」

次回は、ワンショットとマルチショットについて、もう少し掘り下げてみたいと思います。

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