『基本に忠実』『超本格』。でもクラフトならではの『オリジナリティ』イチローズモルト!
■イチローズモルトのすごいところ
引き続き、私が思う「肥土伊知郎さん=秩父蒸溜所=イチローズモルト」のすごいところについてです。
今回は「つくり方が基本に忠実かつ超本格」、「クラフトならではの斬新な発想、スピード感ある実現」についてです。
■つくり方が超本格
ベンチャーウイスキー秩父蒸溜所のウイスキーづくりは、秩父城蒸溜所のオリジナリティは加えられていますが、基本的に、オーソドックスなスコッチウイスキーのつくり方を踏襲しています。
ウイスキー氷河期に生産を開始したので、ポットスチルは小規模サイズですが、当時、スコットランドで慣例的に認められていた容量サイズの下限=2,000Lサイズです。
これは、スコットランドでも正式に「ウイスキー」と認められるポットスチル・サイズにしたかったからだと思います。
また、2,000Lのモロミを2回蒸溜して得られる、約200Lの蒸留液(=ニューポッド)は、一般的なバーボンバレル樽が200Lなので、1バッチの蒸溜で、ちょうど1樽分を仕込むことができるという生産の手間を考えたものでもあります。
また、そのポットスチルも、スコットランドの名門:フォーサイス社製で、ド定番中のド定番です。
特段、どこのメーカーのものが優れているということはありませんが、ウイスキーづくりの世界では、一番有名なポットスチルメーカーであることは、間違いありません!
(現在は、フォーサイス社のポットスチルは、世界的なウイスキーブームの中、数年待ちと言われています。)
■つくり方が基本に忠実
これれは、クラフト蒸溜所だから、今までの大手メーカーと差別化をするために「敢えて」「最初から」「奇をてらって」、味をこねくりまわすのではなく、まず基本に忠実に自社のベースとなるモルトウイスキーをつくって、そのハウススタイルを確立する。
その後に、自社のオリジナリティを加えていった方が良い、という考えに基づくものです。
この、肥土さんの「基本に忠実なウイスキーづくり」という視点がわかる記事がありましたので、引用します。
(肥土さんにアドバイスをもらった厚岸蒸溜所の樋田社長のインタビュー記事です。前提として、樋田さんはアードベッグやラガヴーリンといったアイラモルトに憧れてウイスキーづくりをはじめた、ということがあります。)
■クラフトならではの斬新な発想、スピード感ある実現《つくり編》
◇ミズナラ材の発酵槽
秩父蒸溜所ならではの工夫は、まずは第一蒸溜所の東北産ミズナラ材の発酵槽が挙げられます。
通常、ウイスキーの発酵槽は、ステンレスか木材を使って作られます。どちらにも長所があるので、一概にどちらが良いとは言えませんが、木材の場合では、アメリカ産のダグラスファーなどを使う場合が多いです。
一方で、現在、ジャパニーズウイスキーが世界的人気を得ている中で、注目されているのが、日本独自のウイスキー樽である「ミズナラ樽」です。
この樽でウイスキーを熟成させると「白檀」や「伽羅」のニュアンスが加わり、オリエンタルで東洋的なフレーバーの原酒となります。人によっては「お寺の朝の香り」と表現する方もいらっしゃいます。
この人気のミズナラ材をウイスキー樽ではなく、発酵槽に使ったわけです。
これは世界唯一だと思います!
2019年に、秩父第二蒸溜所が生産を開始していますが、こちらはフレンチオーク材の発酵槽です。
今後どのようなフレーバーの違いが出てくるのか、興味は尽きません!
◇フロア・モルティングへの挑戦
スコットランドや、日本でのウイスキーづくりでは、原材料の麦芽は、モルトスターという麦芽専門会社より仕入れることが一般的です。
ただ、そういった麦芽専門会社が誕生するまでは、各蒸溜所で大麦を仕入れ、それを自分たちで製麦して麦芽にしていました。
そして、その自家製麦芽の中で、一番伝統的な麦芽づくりの方法が「フロア・モルティング」と呼ばれるやり方です。
これは「濡れた大麦を鋤き返す=酸素を送り込んだりする」作業を、機械ではなく、木のシャベルを使って人力で行うものです。この作業は「濡れた大麦」はとても重く、本当に重労働だと言われています。
現在ではスコットランドの伝統的な蒸溜所の数ケ所で行っている以外、フロア・モルティングはほぼ行われていません。また、行なっている蒸溜所でも、使用する麦芽の「全部」ではなく、「一部」をフロア・モルティングで製麦して、あとはモルトスターから仕入れます。
日本では、ウイスキーづくりの黎明期に、サントリーやニッカがフロア・モルティングを行っていましたが、現在は行っていません。
人力によるフロア・モルティングでは、機械での大麦の鋤き返しと違い、ムラが発生します。
ムラは「品質にブレが出るから良くないのでは?」と思ってしまうところですが、製麦技術も進化した現在、このムラこそが、セレンディピティとなって、予期しない偉大なウイスキーを誕生させる可能性も秘めているのです。
このような麦芽づくり、ストーリー性があって面白いですよね。
ちなみに、現在、世界で唯一、自社製麦のフロア・モルティング麦芽のみで全商品を仕込んでいる蒸溜所があります。
スコットランドのキャンベルタウンにある『スプリングバンク蒸溜所』です。
スプリングバンク蒸溜所は、スコットランドでも数少ない家族経営の蒸溜所で、その『モルトの香水』と称される魅惑的なフレーバーのウイスキーによって、この数年、人気が急上昇!
最近は、ちょっと手に入りにくくなってしまっています。残念。
◇地元産大麦使用へのチャレンジ
また、「せっかく自社で製麦するなら地元産の大麦を使いたいよね」と考えると思うのですが、もちろんベンチャーウイスキーさんでもそれは考え済で、すでに一部商品で地元産大麦を使用されています!
◇自社内の製樽施設
ウイスキーを熟成させる「木樽」ですが、スコットランドでは麦芽と同様に、専門の「樽メーカー」から仕入れることが一般的です。
日本では、元々そういった洋樽メーカーがなかったので、古参かつ大手のサントリーやニッカは、自社内に製樽施設を持っています。
一方で、他の日本の蒸溜所は、樽メーカー(国内で一番有名なのは有明産業さん)から仕入れる形となっています。
ベンチャーウイスキーさんでは、マルエス洋樽という会社が廃業される際に、その設備をそのまま引き受け、2013年に秩父蒸溜所に樽工場(クーパレッジ)を設置しています。
人によっては、「ウイスキーの味わいの7割以上は樽材から!」という意見もありますから、自社製樽は強いですよね。
そして、そのベンチャーウイスキーのクーパレッジでは、さっそく「ちび樽」という小さめのオリジナル規格の樽が作られ、原酒にバリエーションを加えています。(一般的には、小さめの樽だと熟成が早く進みます。)
■クラフトならではの斬新な発想、スピード感ある実現《商品編》
長くなってきたので、商品編は、次回の記事でご案内します!