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袖引小僧

 水木先生の妖怪図鑑や京極先生の本にも出てくるのでご存知の方も多いかもしれないが、夕暮れ時(いわゆる逢魔時であるが、時間を限定する必要はないかもしれないが。)に道を歩いていると突然袖を引いてくるという妖怪で、ほぼ人の目に見えず、人の方が勝手に転んで怪我をすることはあるが、ほぼ無害の妖怪である。

 その起源は、落武者の霊が助けを求めている姿とか、帰りを待ちわびた共働きの両親の子供が、親の姿を見つけ突然飛び出したところ、親が盗賊と誤り殺してしまったのが霊になったとも言われる。

 いずれにしても昔の人が歩いていて角を曲がる折、角にあった樹木の枝に袖を引っ掛かて止められたり、石に躓いて転けてしまったとき、自分の不注意を棚に上げて、
「あっ。袖引小僧が引っ張ったな。」
と言ったのが始まりではないだろうか。今でも家の中で物を失くした時に、妖精さんや小さいおじさんの仕業にしてしまうのと、心理的には同じなのかな。

 それでは、袖引小僧は実在したのだろうか?ここまでの話の流れからすると、自分の歩みを止められた人が、単に責任を小僧に押し付けているだけの様に思える。でも、枝に引っ張られ、あっ袖引小僧と思った瞬間、その人の心には確かに小僧がいたと思う。事故で幼い子供を亡くした親がその事故現場に通りかかった時、自分の子供が袖を引く。そう思ったらそこにその子は実在するのだと思う。

 つまり、袖引小僧はその存在を必要とする人々やその存在を信ずる人々の心の中に棲んでいて、
「あっ。袖引小僧がいる。」
と思った瞬間にその言霊が実像となって我々の前に現れるものなのかもしれない。

 「ねえ。そのシャツのシミ一体どこ
  でつけたの?」
   「不思議だな。?全然気付かなかっ
 たなあ。きっと袖引小僧の仕業じゃ
 ないかな。」
 「また、変なこと言ってる。この前
 は、妖精さんで、その前は小さいお
 じさんて言ってたでしょう。」
 「‥‥」

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