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雉真兄弟の夢(朝ドラ異聞)

 昭和の初め、岡山に足袋製造から始まり学生服製造で大きくなった雉真繊維という会社があった。社長の雉真正吉には2人の息子がいた。

 長男の稔は、成績優秀容姿端麗。将来は海外と自由に行き来し、商売をすることを夢見て英語の勉強を続けていた。次男の勇は、野球一筋。甲子園出場を夢見て練習に明け暮れていた。

 そんな2人が同じ女性に恋をした。名前は安子。和菓子屋の娘だった。やがて稔と安子は相思相愛の間柄になる。勇が恋を諦め2人を応援したこともあり、稔と安子の恋は実る。

 しかし戦火が2人を引き裂き短い結婚生活の末、稔は出征する。同時期勇も出征。やがて戦争が終わり、勇は戦地から戻るものの、稔は戦地に消える。

 帰還後の勇に安子との再婚の話が持ち上がり、彼の恋心は再燃。しかし彼女は態度を保留した。そして何故か進駐軍の将校と恋仲になり娘を残したまま渡米してしまい、消息を断つ。勇は、残された安子の娘の名るいが野球にちなんで兄が付けてくれたものと思い、彼女のことを自分の娘同様に慈しむ。しかしるいも正吉が亡くなって直ぐ岡山を出ていき、消息を絶つのだった。

 年月が過ぎ、勇は父の会社を継ぎ順調に家業を続けていた。だが、彼が自分の目の前から消えた親娘のことを思わぬ日は無かった。彼が雉真家で女中をしていた雪枝と作った家庭から育った息子・孫達は優秀ではあった。しかし、彼に対してはおざなりで、彼の大好きな野球に至っては興味も示さなかったので、彼は一抹の寂しさを感じていた。

 そんなある日、30年近く音信不通であったるいから連絡があり、自らの家族を伴って岡山に帰ってくる。勇は嬉しかった。2度と会えないと思っていたるいと会えたのだ。彼女は京都で回転焼き屋をしており、彼女の長女は京都映画村の職員、長男は高校野球の選手とのこと。特に長男桃太郎とは野球を通じて心を通わせ、自分の孫以上にかわいがるのだった。

 やがて勇は、桃太郎を雉真繊維野球部に誘い、自分の下で野球をさせることとなる。一方るいの長女ひなたは、英語を習得しそのスキルを高めていくのだった。

 数年経ち、ひなたの会社がハリウッドと共同で企画する映画の為に来日したスタッフの中になんと安子がいることが判明。ひなたの尽力により、るいの夫錠一郎の参加する岡山でのコンサート会場で一同の再会がかなった。

 一旦は物語の大団円と思われたが、物語はまだ続いた。ひなたはそこからアメリカに留学して英語と映画を学び、日米を股にかけた映画人となっていく。桃太郎は母校西陣高校に戻り、息子剣とともに野球部監督として甲子園出場を果たす。雉真繊維のユニフォームで。

 桃太郎が母校を引き連れ夏の高校野球大会開会式に出場したその日。勇は病床の枕元のテレビでその様子を感慨深く見ていた。桃太郎のお陰で彼の夢が叶ったのだから。ひなたのお陰で稔の夢も叶った。思えば、兄弟の夢は、2人の娘というべきるいの2人の子供=兄弟の孫というべき2人によって叶えられたのだ。

 「兄さん、思えば安子とるいとるいの2人の子は俺たちの夢を叶える為に現れてくれたんだな。もうすぐそっちへ行くからその辺りのことゆっくり2人で話そうや。」
勇の目はゆっくりと閉じられたのだった。




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