1.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜
モリモトは全身に暖かい水の感触をおぼえて目を覚ました。
空気も暖かく、海の匂いと甘い花の香りがする。身体はうつ伏せで半身が砂と海水に浸かっている。口の中にも砂や海水が入っているようだ。身体を起こしたいが、なんとなく動けないような気がする。穏やかな波がふくらはぎに打ち寄せている。とりあえず、寝そべったままの姿勢で口の中の異物を吐き出す。身体はあちこち痛むし口内は塩っぱく砂でじゃりじゃりとしているが、なぜだか気分は爽快だ。このまま死ぬのだろうか?
日付や時間はわからないが、視界の端にはまん丸い月が見え、まるで昼間のように世界を照らしている。自分はなぜここにいるのか?どうして海岸なんかで寝そべっているのか?船旅か漁に出ていて難破でもしたのだろうか?
モリモトは自分が今なぜここにいるのかをゆっくりと考え始めた。
どうやら直前の記憶はないが、不鮮明ながら過去の記憶は喪失はしていないようだ。試しに古い記憶から呼び戻してみることにしてみた。
まず思い出したのは、誇らしいような恥ずかしいような気持ちとともに立ちのぼるニベアの匂いだった。そう。あのニベアだ。モリモトは特に嗅覚が鋭敏と言うことでもないのだが、ものの匂いが好きなのだ。思い出も匂い付きだったり、匂いから想起する記憶も多い。
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