アフガン救出作戦で思ったこと
こんにちは。
本日、アフガニスタンから米軍が完全撤退した。
完全撤退と言っても残留している米国人の救出作戦については継続するとのこと。
しかし日本の自衛隊が送った輸送機は1人の日本人と十数人のアフガン人を救出したのみで本日中にも撤退するという。
しかし、まだアフガンには日本人とその協力者のアフガン人が数百人は残っていると言われ、今後の安否が非常に気になるところだ。
そこで今回思い出したことがある。私がかつて中国で経験した話だ。今思い出しても気分の悪くなる出来事だが、ある意味チャイナリスクや海外リスクとして皆さんにも知って欲しくその顛末を書いてみたい。
数年前のある朝、出勤して間もなく、私の携帯に見慣れない番号から電話がかかってきた。
「はい、もしもし?」
「江花さんですか?」
「はいそうですが、そちらは?」
「公安です」
「え?どんなご用件ですか?」
「あなたにお話しを伺いたいので、都合の良い日時を指定していただけませんか」
「どういう内容でしょうか?」
「詳しくはお会いしてからご説明します。もし必要でしたら、こちらから出向いても構いませんが」
「そうですか・・・では、明日の10:30に私がそちらに伺います」
ざっとこんな会話だった。
しかし実はこの出頭要請の電話は予測していたものだった。
背景はこうである。
私の会社の顧客であったある日系企業の社長Aさん(日本人)が、その会社の中国人出資者Bに民事で訴えられていたからである。
なぜ訴えられたかというと、単純に言えば投資者同士のトラブルである。
投資割合としては8:2で日本人であるA社長に優先議決権があるのだが、実は会社設立時の定款で、議決の際は「投資者の全会一致」が用件として定められていたのだ。
実は2年ほど前にこの社長さんから相談を受け、そのことを初めて知った私は「なぜ設立前に私に相談してくれなかったんですか?」と言ったのを覚えている。
こう書くとこのA社長が「間抜けな社長さん」に思われるかもしれないが、決してそうではない。
むしろ我々からすれば、日本でもそこそこ有名なメーカーの切れ者社長、という印象の方が強い。
ではなぜ?
結局、ひとえに中国ビジネスの経験のなさである。
中国でのビジネスは日本人が思いもつかないような問題がおきる。
「思いもつかない」という事は、思いもしないわけだから、このA社長にとってはまったくの想定範囲外のトラブルだったはずだ。
もちろんそういう怖さがあるからこそ、経験の少ない日本人経営者はブレーンやコンサルをつけるのである。
問題はそのブレーンの選び方である。
ここは中国だから、やっぱり中国人だろう。この場合もこの中国人投資者Bがそのブレーンのはずだった。
このやり方は確かに半分正解、しかし半分は不正解である。
ではどの部分が正解でどの部分が不正解なのかと言えば、中国人だから中国のことをよく知っているのは当然で、その部分は正解。
不正解という意味は、そのブレーンが常に善良であるとは限らない点だ。
最初から騙す気満々の場合は言うに及ばず、何らかのきっかけで関係性が悪くなった場合も想定しなくてはならない。日本人同士でも共同出資にはそういうリスクがつきまとうのだから、海外、ましてや中国ではなおさらだ。
日本人は性善説に基づいた慣習が身についているが、中国人は性悪説に基づいた慣習が身についている。
つまり、慣習上、中国人は契約に関して最悪の事態を想定した真剣勝負だと考えるのに対して、日本人は契約を単なる儀式と考えているところがある。
今回の定款についても、中国人投資者Bは8:2の投資割合で自分がマイノリティであるからこそ、80%のマジョリティに対して防御策を講じたと言える。
しかし、日本人社長Aさんはこの定款を単なるフォーマット、つまり儀式と考え、中国語で書かれた定款を翻訳もせずに自社の中国人スタッフに目を通させて、問題なしと判断してしまったのである。
自社の中国人スタッフなどは単なる従業員であるから、そこまでの責任も自覚もない。
やはりこの場合、しかるべき業者(つまり弊社や弁護士など)に翻訳させ、チェックをさせるべきであった。
ただ、A社長が気の毒だったのは、実はこの中国人投資者BはA社長が日本国内で共通の友人を通じて知り合った中国人事業家Cの父親であるという点だ。
日本ですっかり意気投合したA社長とC事業家は、東京で中国での会社設立を誓った。
その後家族ぐるみの付き合いに発展した中国人事業家Cとその父親である投資者Bがまさか自分を裏切ろうとは思いもしなかったのであろう。
実際、私はこのBやCとも打ち合わせで何度も会っているが、A社長には幾度となく「注意するように」伝えている。
注意するように、、、というのは彼らがはじめからA社長を騙す目的で投資話をもちかけた、という意味で注意を促したわけではない。
前述のように、中国人と日本人では契約事に対する考え方が異なる点、摩擦が起きると何がどう転ぶかわからない点に十分注意するように促したのだ。
結果は案の定、経営上のささいなことから両者の関係が悪化し、これでは事業継続が出来ないと会社の解散を宣言したA社長に対して、B、C側は「役員の全会一致がなければ解散出来ない。定款を変えることはできない」という、まさにその定款を盾に解散を拒否。ついには会社のお金の流れを巡って民事訴訟に発展、最終的にはBC側がA社長をやはりお金の流れに関する横領罪で刑事告発をしたのである。
結局、A社長は会社のお金の貸し借りや負債の責任についての民事係争中に横領その他の刑事告発までされたことになり、刑事被告人としての取調べをうけるという状況になってしまった。
私はと言うと、この会社と私の会社が市場調査やマーケティングなどのコンサル契約を結んでいたことから、そのコンサル料名目で私がA社長の裏金作りに協力したのではないか?という疑義(私に言わせればいいがかり)で参考人聴取となったのである。
結果的にはそういう事実もない(お金を還流させたというような実態もない)し、契約を締結し、領収証もきちんと発行していたのでその疑いは晴れたが、決して気分のいいものではなかった。
取り調べに当たった刑事の態度も通常の中国人よりソフトな感じで、非常に人当たりは良かったが、聞かれることの内容は明らかに偽装契約ではないか?という前提に立ってのものであった。
実は取り調べの前に私も中国人の顧問弁護士に相談したのだが、弁護士曰く「ありのままの話しをすれば何も問題ない」との力強い言葉とともに「でも中国の司法には私も何度も泣かされました」という不穏な発言もあった(笑)
彼もハッキリとは言わなかったが、きっと公安がその気になればなんとでも出来るということを暗に匂わせたのだろう。
実際、BC親子は地元の人間であるから公安のかなりのレベルに通じていてもおかしくはないからだ。
いずれにしても私個人と弊社には何の影響もなかったが大変貴重な経験をした。
これもまた今後のコンサルに役立つのではないだろうか。
そんな前向きな気持ちとともに、合弁、合資といった中国人との共同事業は本当に難しい、との想いも新たにしたこともまた事実。
かく言う私も中国企業との共同事業で騙された過去がある。
だからこそこのA社長には口酸っぱくアドバイスしたつもりだったのだが、、、
これらで得た教訓としては次のものがある。
・中国ビジネスに欠かせないのは信頼できるアドバイザー。この時に中国人を起用するのはいいが、一方で日本人や本当に自分サイドのアドバイザーの意見も同等に参考にすること。多くの日本人経営者はどうしても中国人のアドバイスに偏ってしまう。
・共同事業、共同出資の際には契約書、定款は必ず「翻訳資格のある業者」に翻訳をさせ、その内容をチェックすること。ちなみに個人の翻訳では間違っていた場合に何の保証も責任もないので絶対にダメ。
・中国人は真剣勝負で挑んでくるので、日本人もその覚悟は必要。悪気はなくても可能な限りのリスクヘッジをして来るはずで、出資者間での揉め事が起きた時のことを常に想定しておくべき。
さて、ここまで書いてこの件と今回のアフガンの件がどこでつながるのか?そう疑問に思っている人がいるかもしれない。
その意味ではここからが本題なのだが、実はこの時にこのA社長は相手側の中国人従業員数人に工場内に軟禁されてしまったのだ。
その現場から私に電話で助けを求めたA社長には「すぐに領事館に電話をしてください」とアドバイスした。
私から領事館に電話をすることも出来るのだが、恐らくは本人以外からの連絡にはそれが本当かどうかの確認が取れないので、取り合ってもらえないと思ったからである。
彼はそのアドバイスの通り領事館に電話した。
しかし、帰って来た反応は、、、
「警察に電話してください」
という至ってシンプルなものだった。
さらには「領事館は間もなく退勤時間なのでこれ以上の対応もアドバイスも出来ません」と言ったそうな、、、
これはあまりにもひどい。あまりにも冷たい。
当然ながらA社長もそう思ったが私もそう思った。
A社長にしてみれば私からのアドバイスもあったが、自分では思うように中国語が話せないから、領事館に連絡したのだ。中国語を自由に操れるなら直接警察に電話している。
また中国人社員数人に取り囲まれて、日本語でならまだしも中国語で助けを呼ぶことなど出来ないではないか?
まさしく中国において日本人の身体、生命、財産に危機が及んでいるにも関わらず領事館、つまり外務省はこんな対応しかしない。
これは正しく今回のアフガニスタンに取り残された邦人とその協力者を見殺しにする精神と根を一つにすると感じたのである。
結局、私が警察に通報し駆けつけた警察官らが双方にその場での示談を促し、解決金の一部として手持ちで持っていた数千元を従業員グループに渡して開放された。
だから、先ほどの教訓に付け加えるとすれば、
・海外での緊急事態に日本の在外公館(大使館や領事館)などはまったく当てにならない。
・自分の身は自分で守るためにも現地の言語については最低限の会話力は身に着けておくべき(自社の通訳や社員も当てにしない方がいい)。
・本当にいざとなったら「アメリカ大使館に駆け込め!」
最後の一行は昔から日本人バックパッカーや海外NPO職員らの間で語られている愛言葉である。
結局、我々日本人は身に寸鉄も帯びずに海外に出て来ているのだ、ということを忘れてはならない。
これが最大の教訓ではないだろうか?
アフガンに取り残された邦人とその協力者たるアフガン人らの無事を祈るばかりである。
江花隆一郎
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