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谺(こだま)

本を読んでいたら、谺(こだま)という漢字が目にとまりました。

漢字の形に惹かれ、諸橋大漢和辞典の索引で「こだま」を参照しましたが、見つかりません。

大漢和は、目指す漢字が載っているにも関わらず、探し当てるのに苦労することがあります。最後まで見つけられないことも、ままあります)。

今回も、この漢字自体が載っていないのではなく、こだまという読みでは索引されていないのだろうと思い、あちこちページをめくり、ようやく見つけました。

やはり「こだま」のよみは、載っていませんでした。

2つの漢字を組み合わせた谽谺(かんか)という言葉は、谷間の大きくうつろな空間の様子を示すとありましたが、谺単独での意味は書かれていませんでした。

今度は漢辞海にあたってみました。

谷に牙、だけではなく、山に牙を組み合わせた漢字もありました。
どちらも、もとの意味は山深い様子。
この漢字に、音が反響するこだま、すなわち山びこの意味を当てるのは、日本語特有の用法でした。

以下は、学研現代新国語辞典に載っている「こだま」の定義です。

1. 樹木に宿るたましい。木の精。
2. 音が山や谷などに反響する・こと(音)。山びこ。

学研現代新国語辞典「こだま」

こだまという言葉は、辞書では二つの定義を持っているものの、もともと一つのもののようです。

(━する) (音声が山に当たって反響するのを山の霊が答えるものと考えたところから) 声や音が山などに反響してかえってくること。また、そのかえってくる声や音。山びこ。

コトバンク「木霊・木魂・谺」

今さら、と思いつつ、山と谷の漢字の項を参照してみました。

三省堂「漢辞海」より

万物を生み出すのが山。川へと通じる水の湧き出し口が谷。
どちらも源からより大きな世界へと向かっていく意味を持つ言葉でした。

小さな風の流れかもしれないし、一滴の水かもしれない。
それらが源から、こだまを響かせながら、山や谷という広い空間の中を通り抜けて、広がっていく。
谺や岈の漢字から、そんな流転の様子を感じます。


冒頭で、本を読んでいたら、谺(こだま)という漢字が目にとまったと書きましたが、読んでいた本は、高田大介さんの「図書館の魔女 烏の伝言」です。図書館の魔女シリーズの第一弾は、以前もご紹介したことがありますが、ようやく第二弾を読み始めました。

たった一つの漢字でも、吟味して使っていることが感じられる高田さんの文章は、簡単に読み流すことができない力を持っています。

とはいえ、谺の漢字に出逢ったのは3ページ目。
こんなところで立ち止まっていたら、読み終わるのはいつになることやら。

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