萌黄色の桜
我が家から少し離れた遊歩道に、さまざまな品種の桜が植えられています。ソメイヨシノよりだいぶ遅れてバラバラに咲き始める桜たち。先日は珍しい緑の桜、御衣黄(ぎょいこう)が咲き始めていました。
京都の仁和寺が発祥と言われ、東京の荒川堤で栽培されていたサトザクラです。淡い緑色は時が経つにつれ、中心から赤く色づいていき、花の色が珍しい品種として江戸時代から知られています。
御衣黄の名は、平安時代の貴人の衣服(御衣)に使われた「萌黄色」に似ていることからつけられました。
萌黄色が武家の鎧に用いられた例として挙げられるのが、屋島の戦いで扇の的をみごとに射抜いた那須与一です。
那須与一は当時二十歳前後の若者だったそうです。神仏に祈り、命をかけて矢を射た与一は、萌黄色の組糸で綴り合わせた萌黄威(もよぎおどし)の鎧をつけていました。
花びらはもともと葉が変化したものですが、若葉色をしたこの桜の花びらには、突然変異で先祖返りによりクロロフィル(葉緑素)が含まれるそうです。この花は時間が経つにつれ、だんだん赤くなりますが、その赤色のもとになっているのがアントシアニン。
秋の紅葉は、葉の中のクロロフィルが分解され、アントシアニンが合成されることで紅く色づきます。
御衣黄の花びらの萌黄色と赤色は、葉の緑や紅葉と同じ色。
春を代表する花の中に、秋の美しさを愛でることができるわけです。
なんとも不思議な桜です。