37 母の覚悟
朝起きても、変わらず母はハキハキ喋る。
意識障害、せん妄の影響はありつつも
話し方はしっかりしていた。
これは本当に最後のチャンスだと思った。
今日はどんな話でもいい。摩訶不思議な話でもどんとこい。話せるだけで幸せだ。
たくさんお話をしよう。
看護師さんが帰った後、母のエアベッドで無理やり、母と一緒に横になった。
すると母はしっかりした意識と口調で話し始めた。
今は、薬がたくさんあって延命治療もたくさんある。延命治療が良いか悪いかは、わからないけど、お母さんはつきとめたんだ。
薬じゃなくて気持ちなんだ。
だからお母さんは生きられるまで生きるよ。
母の目はまっすぐ上を見ていた。
悲嘆するわけでもなく、笑みを浮かべて。
これが死を目前とした人から出てきた言葉だ。きっと、周りの誰よりもこの世界との別れを感じていたに違いないのに。
その中で、力強く話してくれた。
その横で泣くなんて失礼だと思った。
なのに、なのに心と涙は容赦なく溢れてくる。
結局、涙を隠すのに必死で何も返せなかった。
どっちにしろ、掛ける言葉なんて見つからなかった。