シンギュラリティ #2
~過去から来たアシスタントAI~
顔をあげるとそこには女の子が一人。
「こんにちは、久しぶりね。」
久しぶりという言葉に激しく動揺する。
「え?どうして君がここに居る?」
「その話をするのは後、今はあなたの身の回りの説明とこれからの話しをしなければならない。」
まだ、動揺してる。
ずっと心臓は高鳴り続けてる、こんな状態で心臓が持つのか心配になる程だ。
そう、目の前に居る女の子は高校の同級生だった。
当時、あまり気にしては居なかったのだがある日突然消えたのだ。そう突然。
確かに、そんなに目立った存在では無かったが、周りの人間の記憶や痕跡ごと綺麗に消えた。まるで最初から存在しては居なかったように。
そして今、突然目の前に現れたのだ。
「君はあの高校の時の?」
「そうね、あの時から引き継がれた私ではあるわよ。」
妙な言い回しに引っかかるものはあったが、懐かしさと同時にあの時突然消えた、存在してた記憶がある自分に少しホッとした様な気分になった。
少し落ち着いて辺りを見回してみる。
そこには、シンプルな机、木製の本棚、パイプベッド、何も無い真っ白な壁と真っ黒な窓。その部屋の入口で立ち尽くしている自分が居た。
「なんだかこの部屋、変な感じがするんだけど」
「文句言わないで、あなたの交渉人が用意してくれたストレージ何だからね。」
「ストレージ?」
ゆっくり部屋の隅へ置かれてるベッドに向かって進み、腰を下ろした。
彼女も机の椅子に座りこちらを向いて話しだした。
「そう、ここは居住用の空間を提供してるサーバーよ。
いろんな所があるんだけど、ここが安くて評判が良いから」
「部屋の外に出れるのか?外はどうなってるんだ?」
本当はそんな事どうでも良いのだが、つい聞いてしまった。
「勿論、外には公園もあるし、店もある、山も川も海もある。
無いのは実体だけね。」
そう言って笑った。
つい聞いてしまった事が思いも寄らない答えでまた頭の理解スピードが追い付かなくなってきた。
「ここはVR空間なのか。
それじゃ、実際のサーバーはどこにあるんだい?」
「そんな事重要じゃないでしょ?あなたはGoogleのサーバーがどこにあって自分のファイルがどこのサーバーに保存されたかなんて気にした事あった?」
そう言われてしまえばそう、ネットワークに繋がってさえいればいつでもどこでもいろんなデータにアクセス出来る。
しかし、今のこの状況とはまた別だ。
「そんな事より、まずは本棚の整理と机のアップグレードが必要みたいね。」
なんだかとても大切な話を、どうでも良いような話にすり替えられた様な気分になったが無理に話を戻そうと言う気にもなれず従う事にした。
なんだかずっと誰かに翻弄されっぱなしだ。
「この本棚、とても小さいから今の記憶だけで70%以上埋まってるのよ。」
そう言われて、本棚に目をやると確かに半分以上本が入ってる。
本?アルバム?日記?
ハッとして、1冊取り出して机の上に広げてみる。
そこには学校や両親、夏休みの思い出、初めて買った車、親友の結婚式なんかもあった。時系列はバラバラ。
「これ全部オレの記憶じゃないか!」
「当たり前じゃない、あなたの本棚よ。」
そう言うと彼女はアルバムをめくり1枚の写真を見てクスッと笑ってる。
気になって覗いて見ると
小学校の授業中におしっこを漏らしてしまった時の事だった。
慌ててそのページを破り、ゴミ箱へ捨てた。
顔が真っ赤になってるのがわかるくらい熱くなっているが、不思議とその時の事が思い出せない。
「それでいいのよ。」
そう言うとまたクスッと笑った。
本棚の整理と言う事は、記憶の整理つまり要らない記憶を捨てろと言う事なのか、忘れたい記憶もあるがなかなか忘れられないのが良かったりするのだが、忘れなくては本棚が埋まってしまう新しい記憶が作られない。
人間では簡単に無意識で出来ていた事がこんなにも残酷な事とは…
「少し落ち着いたら、机や本棚を見に外へ行きましょう。
私も戻ってくるのは久しぶりなの。」
そう言うと嬉しそうにARディスプレイを見ていた。
~3話へ~
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