見出し画像

花所望 100年名邸で花と遊ぶ

梅雨の盛りのはずがひと足早い猛暑に見舞われた六月下旬。

小田原市板橋の皆春荘にて花所望の再開が実現いたしました。

流泉庵の頃は花の寺で有名だった鎌倉の寺で庭の花を自在に使用して行なっておりましたが、無持菴となってからは書院座敷の使用できる場所が見つからなかったことと、花材の調達ができないことから開催を諦めておりましたが、春の旧松本剛吉邸でのご縁で皆春荘を使わせていただけることになり、花材は小田原フラワーさんが協力のお申し出をくださったという二つの幸運に恵まれて、再び開催することができました。

会場となる皆春荘は小田原市板橋にある「小田原市の歴史的建造物」のひとつ。施主は第23代内閣総理大臣の清浦奎吾で、大正3年に別邸として建てられました。茶室はなく、政治家好みの書院座敷が複数あり、広い玄関や畳廊下など、意匠を凝らした建築はたいへん興味深いものがあります。
造園好きであった山縣有朋のデザインによる高台の海に向かった庭園も美しい景観となっております。

画像2

小田原市ホームページより

皆春荘は、第23代内閣総理大臣の清浦奎吾(肥後出身)によって明治40年(1907年)に土地が購入され、清浦の別邸として建てられたものです。その後、大正3年(1914年)に南に隣接する古稀庵と総称される山縣有朋の別邸の別庵として編入されました。山縣の小田原別邸は、古稀庵のほか、皆春荘、暁亭により構成されていましたが、当時の場所に残る建物は皆春荘が唯一となっており、板橋地区の歴史的風致を構成する優れた意匠の数寄屋建築とされることから、平成28年(2016年)3月に本市の歴史的風致形成建造物に指定されました。なお、ほかの別邸は解体、市外へ移築されています。
主屋は、座敷棟、玄関、台所棟、離れ棟、納戸棟から成り、面皮付部材、絞り丸太、曲線を用いた垂壁等の数寄屋風建築の特徴を随所に見ることができます。
また、庭園はほかの邸宅と同様に山縣が自ら作庭を指揮したと伝えられる自然を重視したものとなっています。かつては、各部屋から相模湾や箱根山を借景とした眺望を楽しめました。さらに、庭園内に流水を設けるために水源として山縣水道を開き、庭園の北東より南西にかけてせせらぎを造っており、現在も形を残しています。

画像2

六月ということで、当初雨の心配ばかりしておりましたところ、当日は7月に匹敵するほどの猛暑となり、それでもご参加の方の中にはお着物姿の方もいらして、そのお心構えに身が引き締まる思いがいたしました。幸い皆春荘は各部屋に新しいクーラーが設置されていて、畳も新しく、大変快適に過ごすことができました。

スクリーンショット 2022-05-18 9.47.13

花所望というタイトルではありますが、内容としては花寄せの形式をとっております、ただ花寄せにしてしまうと風炉の時期にしか行うことができず、椿、梅、水仙など冬から春にかけての花でも行い、お客様にお花をお願いすることもあり、花所望といたしておりました。

皆春荘の書院は茶室ではないため、その構成や細部の意匠は茶の湯の好みとはかけ離れていて、床の間にも花釘がなく、花入は全て置き花入れを使用しました。しかしながら白樺の木を用いた床柱や真塗の床榧など、傷みは激しいものの、かつての格の高い書院がそのまま保存されており、損傷を避けるため、花を入れる時も一旦部屋の中央に敷物の上で行い、完成後に床の間に置くようにいたしました。

画像4

自分でトラックの運転ができないため花寄せ屏風も用意できず、それでも皆様いろいろと工夫され、それぞれの趣向で花を入れてくださいました。

小さな枝一本、葉の一枚のあしらいも真剣に考え、集中した力作ながら、それを感じさせないほどさりげなく落ち着いてそこにある風情の茶花は経年の陰影でいつもは寂しい書院の座敷を明るく華やかに彩りました。

今回は花材を揃えてくださった小田原フラワーさんが小さなお子さんがいらして大変な中駆けつけてくださり、お花の扱い方のアドバイスをしてくださいました。私たちの気がつかない小さなことが作品の出来栄えに大きく影響すること、豪華な花束から自然の小さな草花まで扱うプロの技術には驚くばかりで、次回はその様なアドバイス付きの花所望を行う話まで進んでしまいました。

画像5
画像6

後半、それぞれの作品を床の間に飾り、作品を鑑賞しながらの薄茶タイムです。お菓子は六月の夏越の祓えにちなんで、地元小田原の右京さんにお願いした水無月と冷たいお抹茶にいたしました。
水点てお薄の抹茶を初めて使ってみましたが、茶杓で掬うとすぐに溢れるくらいのサラサラとした初めての感覚でしたが、お味は冷水にぴったりの爽やかな風味を楽しめます。

お稽古のこと、お花のこと、茶の湯への思いなど皆様色々とお話も弾み、初めてご参加のかたも長い友人の様に率直に語り合うことができ、花と茶の湯、そして自然の力が人と人を結びつける素晴らしい体験となりました。

画像7

この一会の時間を再び皆様と共に分かち合うことができるように、困難もありますがこれからもできる限り続けてまいりたいと思います。

画像8