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メゾン・ド・モナコ 66
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そうして時は過ぎ、今日はいよいよイベントの日だ。
キレイに整えられた庭には、チラシを見て覗いてくれたのだろう、ご近所と思われる人々や、紫乃やギンジの勤める花屋の店主達が声を掛けてくれたお客さん達が、ちらほらと顔を見せてくれていた。
倉庫で眠っていた本の数々は、以前ナオがシャーロックホームズの初版本だと目を輝かせていたように、貴重な物も眠っていたらしく、適当にチョイスしてチラシに載せた羅列を見てやって来る人もいた。何故そんな貴重な物があったのだろうと、なずなは首を傾げたが、このアパートの管理者は春風だ。
彼は貧乏神とはいえ神様で、そして妖は長生きだという。神様の年齢は分からないが、もしかしたら今のように人として生活していたなら、遠い昔に買った物が、現代になって価値のある貴重品になったというのもあるかもしれない。
中には譲り受けた物もあるというが、春風にとっては価値が分からないので、ただの物でしかないのが残念だ。
庭先にシートを敷いて本を並べたのは、春風だけではない。ハクのコレクション本は、販売ではなく、図書館という形だ。
きっと純太が声を掛けてくれたのだろう、ハクの持つ絵本や児童向けの物語に、近所の子供達は目を輝かせ、皆、シートを敷いた青空の下でごろりと寝転んだり座ったり、思い思いにページを捲っている。笑い声の上がる所では、ハクと純太の楽しそうな姿があった。
ママさん達に盛況なのは、出張フラワーアレンジメント教室だ。花屋の奥さんは快活でさっぱりとした明るい女性で、ギンジは彼女に頭が上がらない様子で、あれやこれやと動き回っている。なずなにとっては信じられない光景だが、一見強面のギンジが、奥さんに言われるがまま右往左往している姿は、ギャップがあり可愛いと、ママさん達に人気である。
小さな小瓶を使ったフラワーアレンジメントだが、作り方を教わりつつ、お喋りを楽しめる空間となっていて、なんとも賑やかだ。
アパートは背の高い生け垣で囲われている、アーチをくぐらない限り外には出られないし、庭の中はそれでもそこまで混雑もしていない。子供達は広い庭で本を読んだり遊び回れるので、ママさん方にも丁度良いのだろう。
それに、もし子供が飛び出したり、何か妙な事件を起こそう者がいたとしても、アーチの側にはマリンがいる。
マリンは、スタンプラリーのスタンプ押しを任されている。アパートから出ないように注意を払っておけば、春風の力の内側という事もあり安全だろうという事だ。それに、集まった人々が安心して過ごせるように視野の広さも持っている。
マリンのいでたちは、今日は露出を控えたワイシャツ姿だ。それでも、お客さんは女性が多い中、皆同じ女性ながらマリンに見惚れているようだった。
そして、やって来た客人を出迎えているのが、もう一人、ナツメだ。結局、子供の遊び相手をさせられている。人の姿ではなく、尻尾を一本にした猫の姿だ。なので、当然本物の猫と思われ、子供達に撫でくり回され、猫じゃらしで遊ばれてやってる。
こうならない為に、なずなと一日限定でユニットを組んだ筈なのに、猫の姿が楽だからと、その姿でうろついてしまったが運の尽き、子供達に捕まってしまったという訳だ。
少し気の毒だったが、楽しそうな子供達から楽しみを取り上げるのも忍びなく、「グッジョブ!」となずなが親指を立ててみれば、ナツメからシャーッと、牙を剥いて睨まれた。
だが、これも人と仲良くなるミッションと思って許してほしい。
何より人で賑わっているのは、レストランだ。まだフウカは戻ってないので、紫乃となずなで回している。
庭に面した縁側を開け放ち、お客さんには、そこから入るようにして貰っている。
昔、メゾン・ド・モナコがレストランだった頃は、玄関まで整えられた小道があり、庭とは境ができていたという。広い庭は観賞用に整えられ、夏の夜は時折ダンスホールになっていたという。
メニューは、凝ったものではなく、オーソドックスな物に決めた。ナポリタンやオムライス、ビーフシチューやハンバーグ。ライスかパンが選べるが、パンも手作り。軽食には、紫乃のサンドイッチ、それからパンケーキ。サンドイッチは、持ち帰りの他、外のテラスでも利用出来る。
凝った物ではないが、どれも紫乃とフウカなりにレシピを考え、メニューを作ったつもりだ。