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メゾン・ド・モナコ 62

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それからなずなは、気持ちを切り替えて、レストランとイベントの準備に集中して取り組んだ。

どうにか手分けをして庭を更に整え、倉庫内に眠る品物のピックアップや、外でも寛げるようにと、ラグや椅子、テーブルも用意した。それらの物は、倉庫の角に眠っていた物だったり、紫乃しのや花屋の店主達が貸してくれた物だ。

倉庫に眠っていたテーブルは、シックなアンティークの物で、表面には細かな傷がついていたが、これが実際レストランで使われていたと思えば感慨深かった。そういえば、曾祖母のヤヱもレストランで働いていた。彼女も、こうやってテーブルを磨き、配膳したのだろうか。
このテーブルや椅子がヤヱと同じ時代の物かは分からないが、なずなの知らない時代とも繋がれるみたいで、なんだか、会った事のないヤヱとも会えたような気がする、不思議な気分だった。

そうして、心踊らせているなずなとは対照的に、久しぶりに見るそれを、春風はるかぜはぼんやりとしたまま、そっとテーブルの表面を撫でた。それから、準備に追われる住人達を振り返る。春風の視線の先には、紫乃とフウカが色鮮やかなテーブルを囲んでいた。

「使い道なくなって、どうしようかと思ってたんだ。これさ、色にこだわって塗装したんだよ」
「そうなんですか、綺麗ですね…使わせて貰って良いんですか?」
「勿論!」

紫乃は、レストランやキッチンカーのメニューの打ち合わせの為に来ていたのだが、使わない椅子やテーブルを持ってきてくれていた。ミントと白の爽やかな色合いは、紫乃のイメージにもぴったりだった。

「そういえば、店長は、店を持とうとは思わないんですか?」
「あー、理想はあるけどな。両方出来ればやりたいかも。店は店、キッチンカーはキッチンカーで限定メニューにして、小さいカフェとかさ、隠れ家的な。絵とか飾ったりして」
「趣味の店っぽくですか?」
「そー、よくあるじゃん、趣味丸出しのカフェ。あーいうのやってみたいな」

話を聞いて頷くフウカに、紫乃は優しく笑う。

「フウカ君は?今回は、とりあえず一日限定なんでしょ?その後は?」
「…俺はそんな」
「共同経営してみる?平日はキッチンカーで、休日だけ店とか。あ、昼間キッチンカーで、夜は店とかもありか」
「え?」

二人のやり取りを側で作業しながら聞いていたなずなは、思わず身を乗り出した。

「それ素敵です!二人の料理を、色んなタイプで食べれるのは嬉しいかも!」
「僕はそんな、人に出せる程の腕では」
「何言ってるの、フウカ君のメニューがあるから、俺は助かってるんだよ」
「…そんな、」
「私もお手伝い出来る事あれば何でもしますから!」
「なずなさんも、まだ決めたわけでは」
「まぁなー、いざやるとなると、色々考えないとな…」

そこへ、皆の話を聞いていた春風は、側に歩み寄り提言した。

「…ここでやったら良いんじゃない?時間や日にちが決まってたら、皆も協力してくれるかも」
「え?」
「…ここは、レストランだったからさ。その方が、この家も喜ぶかもってさ」

そう言う春風は、メゾン・ド・モナコを見上げ、懐かしそうに表情を緩めた。


町内イベントの準備に合わせ、メゾン・ド・モナコでも催しをする、その内容を知らせるチラシをご近所に配る事となった。
チラシには、レストランやキッチンカー、フラワーアレンジメントの出張教室、春風の持っていた本や陶器のラインナップを、ざっくりとだが載せている。

チラシ配りには、ハクとマリンにも手伝って貰った。うっかりマリンに一目惚れするご近所さんが続出したが、彼らの視線を断ち切らせる為、ギンジをボディーガードに引っ張り出した。
マリンと認識されなくても、マリンの美しさはやはり変わらないようだ。ギンジも文句を言いつつも、手伝ってくれるのでほっとする。

果たして人は来てくれるだろうか。そこが一番の悩みどころだ。





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