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ニュースみたいな出来事

21歳の誕生日を迎えたその一週間後。

梅雨の終わり、よく晴れた日でした。

朝起きると、妙な違和感を感じたのです。

いつも一緒に寝ていたチワワのワサビが
わたしの布団にいないのです。

変だなと思い、わたしは下に降りて行き
父に声をかけました。

「吠えててうるさかったので、下の部屋に連れていった」

と、言われました。

違和感は他にもありました。

仕事のはずの母が、
キッチンにいなかったのです。

父に聞いても

「今日は遅番みたいで、疲れて寝ているから、まだそっとしてある」

そう言われるだけ。

わたしは仕事があったので、
再度部屋に戻って支度をする事にしました。

暫くして、

「お母さんの様子がおかしい」
「ちょっときてくれないか」

と、父が突然部屋へ来て言いました。

すぐに母の寝室へ向い
ベッドに横たわる母を見ると
顔は青白くなっており
触れると冷たくなっていました。

「お母さん、死んでるよ?!」

そう言葉を発した瞬間

私の意識は、突然なくなったのです。

暫くして、私の耳に
ものすごい轟音が聞こえてきました。

その音はとてもうるさく
耐えられないほどの音でした。

夢を見ているかのように
真っ白い部屋が見えました。

轟音は、まだ止みません。

「うるさい…」

そう呟いた瞬間、意識が戻りました。

意識が戻っても続く轟音。

呼吸をするたびに、その轟音が聞こえました。

そう、その轟音は、
わたしの呼吸音だったのです。

わたしは父に首を絞められ、意識を失い
そしてまた、奇跡的に呼吸を取り戻したのです。

「さっきのは、なんだったんだろう?…」

朦朧とする意識の中で、状況も掴めない。

もしかして、夢だったのかな?

そう思った瞬間

「やめてくれっ!!!」

という、弟の悲鳴。

重い体で振り返ると、
弟に迫る父が…

手には刺身包丁を握った父が
今にも弟を手にかけようとしていたのです。

夢じゃなかった…

わたしは立ち上がり、
後ろから父を引っ張り、抑えると

「早く逃げて!誰かを呼んで!!」

弟に叫びました。

倒れていたはずのわたしが立ち上がり
驚いて一瞬ひるんだ父の隙を見て
弟は外へ。

逃げた弟を追う事はせず
父は私に向かってきました。

何ヶ所か切り付けられましたが
とにかくなんとか持ち堪えなければ!
その意識によって
恐ろしいほどに身体が勝手に動き
父の攻撃をかわしました。

ついに父は
私の頭を床に向かって押さえ付け
包丁で何度も首を切りつけてきたのです。

しかし、
身体が窒息によって麻痺していたため
わたしは何をされたのかわかりませんでした。

『一体何をしているんだ?!』

そう思って父を振り解き
首に手を当てると

手のひらに付く真っ赤な血…
それもかなりの出血。

私は、遂には立ち上がることができず
床に倒れ込みました。

このまま背中から刺されたら死ぬ…!!!

そう思って、死んだふりをしようとしますが
呼吸はどんどん荒々しくなり
身体に力が入らない。
脱力してしまった結果
ついには舌までもが口から
出たままになってしまうのです。

わたしの不安をよそに
父はベッドに座り込み
呆然とテレビの画面を見ていました。

そう、まるで
全てを諦めたかのように…。

長いような、
ほんのわずかだったような
時間が過ぎて

『もうだめかなー…』

そう思った瞬間

「なにをやってるんだ!!!!」

刑事さんの怒声が響き渡り
父はうなだれた後ろ姿で
連行されていきました。

「大丈夫ですか?!お名前は?!」

倒れているわたしに
かけよってきた救急隊員の方にそう聞かれ

「2階に私の携帯があるので
バイト先に、今日は出勤できないと
伝えてください」

と答えたわたしは
救急車へ運ばれて行きました。

同乗してくれた刑事さんに

「すぐ病院に着くからな!」
「しっかりしろよ!」

と励まされましたが
とにかくバイトに行かれないこと
そしてお給料の事が気になってしまい

「今日、バイトは行けますか?」

と聞いてしまいました。

「今日はさすがに無理だな」
「退院したら、何かご馳走してやるから」

再び刑事さんに励まされている間に
病院に到着。

自分の状況もよくわからないまま
これから先、どうやって生きていこう…
そんなことばかりが頭をよぎっていたのでした。


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