アメリカ連邦証拠規則(FRE) 412~415 性犯罪等について Sex-Offense Cases, etc

【FRE 412】性犯罪の被害者について

(a) 禁止された用途:以下の証拠は、性的不正行為の疑いに関する民事訴訟または刑事訴訟において認められない。

 (1) 被害者が他の性行為に及んだことを証明するために提出される証拠。

 (2) 被害者の性的素質を証明するために提出される証拠。

(b) 例外

 (1) 刑事事件:裁判所は、刑事事件において、以下の証拠を認めることができる。

  (A)精液、傷害、その他の物的証拠の出所が被告人以外の者であることを証明するために提供される場合、被害者の性的行動の具体的事例に関する証拠。

  (B) 性的不法行為に係る被告人と被害者の性的行動の具体的事例に関する証拠で、同意を証明するために被告人が提供する場合、または検察官が提供する場合;および

  (C) その除外が被告の憲法上の権利を侵害することになる証拠。

 (2) 民事事件:民事事件においては、裁判所は、被害者の性的行動または性的素質を証明するために提出された証拠について、その証明価値が被害者への危害および当事者への不当な偏見の危険性を大幅に上回る場合には、これを認めることができる。裁判所は、被害者がその名誉を争点とした場合に限り、被害者の名誉に関する証拠を認めることができる。

(c) 許容性を決定するための手続き:(1),(2)(略)

(d) "被害者 "の定義:本規則において、"被害者 "には、被害者とされる者が含まれる。

================================================


FRE404(a)(2)において、被告人は、被害者の性格的証拠を提出することができる。しかし、FRE412は、性犯罪に限って、これを制限する。

例えば、「被害者の女性は性に開放的で、いろんな男と関係があると噂があったんだよね」といった被害者の性格的証拠を被告人は提出することはできないということである。不当な偏見や、二次加害の防止のためと思われる。

ただし、刑事事件の場合は、例外的に以下の場合については可能。

①第三者が関係すると思われる場合

精液等の物的証拠が被告人ではなくて被害者がその前にした第三者との性交によるものである、という反論をするためには、被害者が別の第三者と性交したことを議論しなくてはならない。こうした場合は例外的に可能である。

②被告人との間に同意があったことを示す場合

被告人と被害者の間の過去の性交については証拠提出が可能というもの。まったくの知らない男からのレイプ事件であればさておき、例えば夫婦間性交等においては、同意の有無について、今までの性交で同意があったことを示して、被害者は同意があったと主張することは可能というもの。

③その他、証拠提出を認めないことが被告人の憲法上の権利を侵害する場合

被告人のデュープロセスの保護等は引き続き必要となる。


また、民事事件については、証拠価値が被害者に対する危害等を大幅に上回る場合(substantially overweigh)に限って、裁判所の判断により証拠提出可能となる。このあたりはFRE403と同じ証拠価値の判断。

また、被害者自身が、自己の名誉のために過去の性交等について証拠提出をするのであれば、裁判所はこれを認める必要がある。

============================


【FRE 413】性犯罪に関係する犯罪
(a) 許容される使用法:被告人が性犯罪で訴えられた刑事事件において、裁判所は、被告人が他にも性的暴行を行ったことがあるという証拠を認めることができる。その証拠は、それが関連するいかなる事項についても検討することができる。

(b) 被告への開示:検察官がこの証拠を提出しようとする場合、検察官は、証人の陳述書または予想される証言の要約を含め、被告人に開示しなければならない。検察官は、裁判の少なくとも15日前、または正当な理由により裁判所が許可するそれ以降の時期に、これを行わなければならない。

(c) 他の規則への影響:本規則は、他の規則に基づく証拠の承認又は検討を制限するものではない。

(d) "性的暴行 "の定義:本規則および規則415において、「性的暴行」とは、連邦法に基づく犯罪または州法(合衆国法律集第18編第513条に「州」が定義されている)に基づく犯罪で、以下のものを含むものを意味する。

 (1) 米国法典第109A章によって禁止されている行為

 (2) 同意なしに、被告の身体のいかなる部分(または物体)と他人の性器または肛門との間で接触すること。

 (3) 被告人の性器または肛門と他人の身体の一部との間で、同意なしに接触すること。

 (4) 他人の死、身体的傷害、身体的苦痛を与えることによって性的快感または満足を得ること、または

 (5) (1)~(4)号に記載された行為に関与する準備行為

【FRE 414】児童虐待に関係する犯罪(略)

【FRE 415】性犯罪又は児童虐待に係る民事訴訟の場合(略)

============================


90年代当時、米国内におけるフェミニズムの高まりとともに性犯罪等が一層問題視されるようになった。性犯罪や児童虐待については、密室で行われる場合が多いところ、目撃者がいない中でこれらの行為を訴追することは難しい。また、特に被害者が証言をする場合、その精神的な負担も重い。

一般的には、FRE404において、検察側が被告人の性格的証拠を提出することは禁じられているところ、こうしたことから、1994年改正によって、性犯罪、児童虐待等については、被告人の過去の行動を含む性格的証拠等を提出することが可能となった。

ところで、とりわけ性犯罪については、他の犯罪よりも再犯率が高いことが指摘されている。すると、過去に犯歴があれば、再犯を犯していてもおかしくない、という類推が他の犯罪類型に比べてより一層高まってしまうわけである。

FRE403では、不当な偏見等を生む危険性と比較して、証拠価値が高いと認められない限り、裁判官は証拠を除外することが可能である。よって、性犯罪等の場合であっても、結局のところFRE403による比較衡量によって証拠提出が認められない場合があるということになる。実際、実務上ではそうした判断が下されることも多いようである。

すると、このFRE413~415の存在価値とは…?と思えなくもない。(教授は『結局こんなの議会の自己満足だよねw』といった冷笑的な発言あり。)児童虐待や性犯罪については、日本でも米国でも、聴取方法から裁判の進行方法まで様々問題提起されているが、なかなか一筋縄では上手くいかないようである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?