40番「ファミリーバザール」(晴れ土曜日午後)
「別れは永遠ではない」
by akari
今日は晴れた日の午後、私はここ岩本町の地に舞いおりた。
なぜ私が非番の日にここ岩本町にいるかというと・・・
もこさんと出勤が被った日のことである。
もこ「アカリちゃん、今度の土曜日の予定空いてる?」
選択肢
・行く
・行かない
アカリ「予定は空いてますけど、土曜日は何かありました? それにもこさんはその日は出勤ですよね」
アカリにとって、可愛い女の子の予定、もとい可愛い先輩たちの出勤予定は頭に入っている。後輩として先輩たちのお役に立つため、好かれるため、最後には・・・
もこ「おお。よく私のこと覚えてるね。そそ。午後からフェリシーなんだけど、その日はイベントがあるよね?」
アカリ「あれ? なにかありましたっけ。フェリシーは通常営業日ですよね」
もこ「うんうん。イベントがあるのは街の方だよ」
アカリ「街?」
もこ「ここ岩本町では半年に一回ファミリーバザールという催し物があるの。私、午前中はヒマだからアカリちゃんを案内しようかなと思って」
アカリ「ほんとですか・・・! 光栄です・・・!」
もこ「うん。じゃぁ、今週の土曜日は空けておいてね」
アカリ「・・・はい!」
私は嬉しかった。私という存在が可愛らしい先輩たちとの休日デートの候補に入れてもらえること、そうこれこそが尊い。
以前の私ならば誘ってもらえてなかったにちがいない。
・・・はて?
以前の私って何だろう。
記憶の断片のみが言葉を発したものの、なぜ断定できたのだろうか。
以前の私もメイドさんだった・・・?
もこ「アカリちゃんお待たー」
アカリ「あ、もこ先輩」
ファミリーバザール当日、もこさんからラインで連絡がきた。
もこ「いまどこいる?」
アカリ「えっとーーー・・・」
正直に言いましょう。私はなめてた。ファミリーバザールという祭典を・・・!
アカリ「えっと、どこでしょう・・・?」
私は可愛い先輩のことで頭がいっぱいすぎて、ルンルン気分で和泉橋を渡り、フェリシーまでの道を突っ切った。いや、違った。
人の波にもまれた。
アカリ「あのその・・・人が多すぎて、今どこにいるのか・・・!」
もこ「ほい」
もこさんに腕を掴まれた。
あれ。いつのまに・・・?
もこ「人多いよね~。ごめんね。きちんと待ち合わせ場所決めておけばよかったかな」
アカリ「い、いえいえ! 私の方こそリサーチ不足で」
もこ「とりあえずここを抜けて〇ローチェいこっか」
アカリ「ありがとうございます」
私は人の波にもまれて息も絶え絶えになっていたから、もこさんの心遣いに感謝するばかりだ。
ファミリーバザールの人の波から抜けた私たちは横道に入り、喫茶店を目指す。
アカリ「もこさん、今日のファッションはカッコイイですね。惚れちゃいます」
もこ「お、ありがとう」
もこさんは携帯を触りながら軽く返事をする。もしかしたら、フェリシーの午後の仕事の確認でもしているのかな。
二人で喫茶店に入る。
もこ「今日は私が誘ったからアカリちゃんの分は出すよ。席おさえててもらえる?」
アカリ「え、いいんですか」
もこ「いいのいいの」
もこさんの心遣いに甘えることにした。
アカリ「わかりました。席のとこにいますね」
もこ「アカリちゃんは何がいい?」
アカリ「あ、じゃあ、コーヒーで」
好きな先輩と一緒にいられるだけで幸せなのだ。なんでもいい。
私は席をとりにいく。もこさんはスラっとした立ち姿が凛々しい。そんなもこさんに誘ってもらえたなんてしんでもいいくらいに嬉しさが心の奥底からわきたつ。
もこ「ごっめんねぇ。私、もうちょっと早く連絡すべきだったね」
アカリ「い、いえいえ。私の方こそですよ」
もこ「ありがとう」
二人でコーヒーをすする。
もこ「今日は寒いねぇ」
アカリ「コーヒーで心温まります」
もこ「そうね」
喫茶店に流れる軽快なBGMがさきほどまで人の波にもまれていた私たち二人の心を軽くするように心にとけていく。心地いい。
もこ「アカリちゃんはここに来てもうすぐ三ヶ月だよね。メイド長から聞いたけれど、記憶喪失? なんだよね。大丈夫かな」
もこさんが神妙な面持ちで私を心配してくれていることが分かる。
アカリ「大丈夫ですよ。ここの職場に拾ってもらえたのが天職かな? と思えるくらいに今はとても良い日々を過ごさせてもらえてます」
もこ「そっか。ならよかった」
もこさんが遠くを見つめる。今日はファミリーバザールのためというのは口実だったのかもしれない。私を心配してくれている、このことが純粋に嬉しい。
・・・?
もこさんが携帯を触る手が止まった
もこ「ごめん。アカリちゃん、他の子が電車が遅延していて遅れるって連絡きたから、私いってくるね。ごめん、ちょっとしかいられなくて」
アカリ「い、いいんです・・・!」
もこ「ほんとごめん。もっと話したかった」
アカリ「いえ・・・!」
もこさんは足早にお店を出ていってしまった。
私の前に残るふたつのカップ。手前にあるのは私のコーヒー、奥にあるのはもこさんのコーヒー。まだもこさんのカップからは湯気が立っているのがわかる。
私は周りを確認しつつ、
アカリ「好きです。せんぱい」
私は奥にあるカップに口をつけた。