逆カルチャーショックの話
カナダに永住している友人が今、日本に一時帰国し、数年ぶりに故郷の東京に数か月滞在している。彼女が感じた「逆カルチャーショック」の話を私にしてくれた。興味深い視点が多かったので、ここにシェアすることにした。
彼女が驚いたのは、この数年で大きく変わってしまった日本の価値観だという。彼女の目に映る今の日本は「勝ち組」「負け組」にこだわり過ぎているように感じるそうだ。たとえば本屋に行くと、仕事で成功していかに他者と差をつけるかのノウハウ本が棚を占めていて、「勝つための方法」や「負けないための何とか」などといったタイトルの本がやたらと目に入るのだという。
テレビを見ても、特集内容のそこかしこに優越感と劣等感がない交ぜになった「情念」のようなものが滲み出ていて、何とも言えない違和感を覚えるらしいのだ。
このような友人の感じ方が、絶対に正しいと言うつもりはないが、彼女はアニメクリエイターで、若い頃から感性がとても豊かな人だった。社会全体を独自のフィルターで感じ取る力を持っていて、私は彼女のそうした部分を長いこと信頼している。だから、日本の現状を語る彼女の言葉は聞き逃せない。
私が最後に海外に行ったのはコロナ禍が始まる直前の2020年1月だったので、海の向こうの感覚にはずいぶん疎くなってしまったかもしれない。日本の中だけにいると見えないものがある。「勝ち組」「負け組」の物差しは、もうずいぶん前からこの社会にあるように思えて、それが当たり前になってしまった。世界中の国々が、多かれ少なかれこの二項対立の基準で回っているように思っていた。もちろんそうした傾向は世界中あるのだろうけれど、別の価値観の選択肢を生きることを、もっとフラットに捉えてもいいのではないか? 今の日本は私たちが思っている以上に、寛容さを失っているのかもしれない。