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もしも、こんな奴がいたら【第3話 プロポーズなんて要らない】

今日は、生まれる前ののサクラに会いに行った。

ある夏の夜。中学の同級生や各々の職場の同僚が集まる飲み会があった。
康子(やすこ)は友人と時間通りに集まり、お酒を楽しんでいた。飲み会が始まってから1時間。カランッ、コロンッ。店のドアが勢いよく開いて、みんなの視線はドアの方に集まった。

「すいません!どうもすいませんね~遅くなって。」
という元気な声。マスコットキャラクターみたいな小さな男が店に入ってきた。彼が健二(けんじ)。サクラのお父さんになる人だ。

康子は、健二のことを面白い奴だと思った。芸人さんに負けないくらいの元気さがあって、中華屋さんもやっていて。康子は、健二とすぐに友だちになった。

康子は工場で働いていた。よく夜勤をしていて、夜勤明けには健二の店までモスバーガーを買っていって二人で食べた。時々、わがままな康子は「ラーメン奢れ。」なんてメールを送って、健二と屋台のラーメン屋さんに行ったりもした。

二人とも30だった。周りも結婚し始め、そろそろ康子も結婚を考えるようになった。でも、康子には諦めもあった。ちょっと家に問題があったから、結婚なんてできないと思っていた。今までも、ずっとそうだった。家の事情を話すと、みんな康子から離れていった。何度も何度も、それが原因で別れることになってきた。

ある日、康子は健二に、恐る恐る家の事情を話してみた。怖かったけれど、なんとなく話してみようと思った。


康子:「実は、私にはお父さんがいなくて。お母さんのお世話を一生しないとならなくて。おばあちゃんがやってた畳屋さんにも、借金があって。他にも色々大変で、、、」


健二:「へぇ。今日、晩飯なに食う?」


康子は驚いた。大変だねとか、俺が力になるよとか、そんな言葉じゃなかった。「へぇ。」って何だよ。康子が30年間ずっと抱えてきた家庭の事情を、たった一言の返事で返された。しかも、この人は今日の晩飯のことしか考えていなかった。

康子は、この人だと思った。

結婚相手との出会いは、運命なんてロマンチックなものじゃなくて、もっと単純で簡単で。どんなに、かっこいいプロポーズの言葉より、康子が欲しかった言葉は「へぇ。」だった。というよりも、家庭の事情なんて気にせずに自分と過ごしてくれる人を探していたんだと思う。


そして、康子はサクラのお母さんになった。健二はサクラのお父さんになった。


私の姿は人間には見えないけれど、私はサクラの両親に静かに頭を下げた。


サクラ、生まれてきてくれてありがとう。




あなたにも、あなたを見守る妖精がいます。きっと、今日もあなたを見守っているはずです。


いつか、あなたに届きますように。

そして、あなたの素晴らしさが世界中のみんなに伝わりますように。


私の心の陽射しへ感謝を込めて。





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