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もしも、こんな奴がいたら【第5話 ピアノ】

今日は、7歳のサクラに会いに行った。

母:「何か、習い事してみる?貧乏だから1つしかさせてあげられないけど。」

サクラ:「ん~。じゃあ、ピアノ!」

母:「いいね!なんでピアノなの?」

サクラ:「まゆちゃんが、ピアノやってるから」


まゆちゃんは、ピアノが上手な近所のお姉ちゃん。サクラにとって憧れの存在だった。

次の日、サクラはまゆちゃんの通うピアノ教室へ見学に行った。まゆちゃんの隣に座っているのが葉子(ようこ)先生。将来、サクラの恩師になる人だ。ピアノを弾くまゆちゃんは、とても輝いていた。葉子先生の優しそうな笑顔にも惹かれ、サクラはピアノを習うことに決めた。



葉子先生:「じゃあ、このページを次のレッスンまでに練習してきてね。じゃあ、また来週。」


サクラは、真面目に毎日きちんと練習をした。だから葉子先生に沢山褒めてもらえた。それが嬉しくて嬉しくて。いつの間にか、宿題以外の曲も練習しちゃって。ピアノがどんどん好きになった。将来は、ピアノを活かせる仕事がしたいなと思うようになっていた。




~8年後(サクラ15歳)~

こんなピアノが大好きなサクラが、どんな進路を選択するのか気になって未来のサクラに会いに行ってみた。サクラのピアノを、さらに上達たせるためにも、葉子先生も教えるための勉強の時間が必要だったり、教材費がかかるようになったりするようになった。少し申し訳ないと思いながらも、葉子先生に月謝を上げたいと言われた。


サクラ:「葉子先生がね、私のピアノが上手だから月謝を上げたいって言ってたよ。」

母:「、、、」

サクラ:「ん?」

母:「あっ、、用意しとくね。頑張って。」

サクラ:「、、、ありがとう。」



サクラは考えた。どうしてお母さんは、嬉しそうにしてくれないのだろう。


そうだった。サクラの家は貧乏だった。ピアノが上達していく娘を応援したい母の気持ちも分かるが、月謝が上がることがどれほど家計を苦しめるかも分かった。


~次のレッスンの日~

いつもは、宿題も真面目にして、質問にも誠実に答えるサクラが、月謝についての返事をしないものだから、葉子先生は気を利かせてこう言った。

葉子先生:「サクラは、ピアノがとても上手。だから、サクラがもっと上手くなってピアニストとか音楽家になりたいのなら、もっと頑張らないとならないの。でも、本格的にはピアノを使わない仕事で良いなら、もう辞めてもいい頃合いかもしれない。もう、私が教えることは何もないから。サクラは十分上手だからさ。」

サクラ:「、、、」


今まで、将来の話なんてほとんどしたことがなかったから、サクラは少し戸惑ってしまった。ただ漠然とピアノが活かせる仕事がしたいと思ってはいたけれど。



葉子先生:「もし、ピアニストになりたいなら東京のピアノ教室を紹介できるよ。」

サクラ:「うーん、、、」



サクラは、もっと戸惑った。ピアノは好きだったけれど、東京のピアノ教室に通うほどの自信はなかった。それに、うちは貧乏なんだ。サクラは、ピアノ教室に通い始めたきっかけを思い出した。まゆちゃんだ。


まゆちゃんは、サクラより6歳も年上だったから、もうお仕事をしていた。幼稚園の先生をしていると聞いていた。だからサクラも幼稚園の先生に少し興味があった。



サクラ:「私、幼稚園の先生になる。」

葉子先生:「そう。サクラにぴったりだね。」



サクラは驚いた。葉子先生は、もっとピアノの道を勧めてくると思っていたから。それに、ぴったりだなんて言ってくれたんだもの。サクラは嬉しかった。


すぐにピアノを辞めるのはもったいなくて、それから2年くらい、幼稚園の先生に必要なスキルを身に付けるためにピアノを習った。そして17歳。高校2年生の時にサクラは10年続けたピアノを辞めた。




私は知っている。あれから何年たってもサクラの趣味はピアノだってこと。ピアノを弾くと、サクラは人が変わったような目付きになって、キラキラ輝くんだよね。そして、ピアノの音色を聴くと、葉子先生との日々を思い出して暖かい気持ちになるんだよね。ありがとう葉子先生。先生は、サクラの一生の恩師です。




あなたにも、あなたを見守る妖精がいます。きっと、今日もあなたを見守っているはずです。


いつか、あなたに届きますように。

そして、あなたの素晴らしさが世界中のみんなに伝わりますように。


私の心の陽射しへ感謝を込めて。



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