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もしも、こんな奴がいたら【第10話 ロックを聴く理由】

満月の夜に、あなたがnoteを書いたから、昔の人を思い出してしまったよ。何回さよならを言えば気が済むんだろう。これで、君のことを思い出すのは最後にしたいな。



ここに、こんなこと書いていいのかな。昔の思い出。でも、書くしかない。明日を生きるために。愛しいあなたに言ったら何て言うかな。あなたは優しいから、きっと素敵とか言ってくれるんだろうけど、少しだけ嫉妬してくれたら嬉しいな。大丈夫。安心して。あなたを愛すと決めたから。あなたが満月の日に書いたから、私は新月の日に書くよ。


毎朝、家を出ると金木犀の香りがする季節になった。秋の風を全身で感じながら自転車で高校へ向かう。毎朝Yくんと駐輪場で会う。恥ずかしがり屋なサクラは、挨拶もできずに教室へ向かう。

高校3年生の文化祭の日。Yくんは熱を出してしまった。前日の土砂降り雨の中、係だからといって外で一人、準備をしたからだ。なんて責任感のある人なんだ。そう思った。しかも、熱があるのにも関わらず、誰にも気付かれないように文化祭を最後まで盛り上げきった。かっこよすぎる。

Yくんの熱には誰も気付いていないようだった。普段通りの話し方。普段通りの笑顔。でも、サクラには、いつもと違うことがわかった。明らかに歩き方がおかしい。そう思った。

文化祭が終わり、家に帰る。サクラは、YくんにLINEを送ろうと思った。スマホに文章を書く。


「文化祭お疲れ様!体調、大丈夫?一番頑張ってたから心配になっちゃった!」


緊張した。胸が張り裂けそうになった。高鳴った。あなたなら、こう言うかな?


Yくん:「ありがとう!気付いてくれてたんだ」


嬉しかった。今まで恋愛なんてしてこなかったから、こんなLINEでも嬉しくてときめいた。たぶん、これが初恋だった。


それから毎日、YくんとLINEをするようになった。駐輪場で会った時にも、軽く挨拶するようになって。教室でも、時々話すようになった。Yくんは頑張り屋さんで、休み時間は倒れるように眠っていたから、疲れが取れるようにチョコとか甘いものをあげたこともあった。

サクラのクラスには、THEキャリアウーマンというような女の子、Iちゃんがいた。クラスの委員長をしていて、陸上部の部長もしていて、性格も穏やかで優しくて。髪もサラサラで。

Yくんは、Iちゃんのことが好きなようだった。Iちゃんと話す時には、表情が違った。二人の間には、他のみんなとは違う雰囲気が漂っていた。それはまるで、夫婦のような。

サクラは決心した。Yくんに振られよう。そしたら諦められる。だから、振られるために告白しようと。


10月5日。YくんにLINEを1通送った。

「明日、電話できますか?」


なんて返信くるかな。


Yくん「できるよ。」


やったー!!!よし!気持ちを伝えるぞ!

あ、でも振られるのか、、、



10月6日。ドキドキしながら電話をかけた。


サクラ「もしもし。」

Yくん「もしもし。」

サクラ「ずっと伝えたかったことがあって。」

Yくん「何?」


サクラ「Yくんのことが好きです。付き合ってください!」

Yくん「、、、」

サクラ「、、、」

Yくん「ごめんなさい。」

サクラ「、、、」

ですよね。分かってましたよ。一瞬、息ができなくなって心臓が止まりそうになった。振られると分かっていたけれど、やっぱり辛かった。


Yくん「中学生の時の話しでもしようよ。」


サクラ「、、、え?」


Yくん「いいじゃん。せっかく電話してるんだし。もう少し喋ろうよ。」


サクラ「うん。」


それから2時間くらい、お互いの趣味や部活の話しを楽しんだ。Yくんは、優しすぎるよ。はっきりしてよ。もう電話なんて終わろうよ。諦め切れなくなっちゃうよ。


この日は、満月だった。



~半年後~


あの告白から半年経って、受験が終わり、サクラもYくんも、Iちゃんも進路が決まった。まだYくんとIちゃんは付き合っていなくて、サクラはモヤモヤしていた。早く付き合ってよ。そしたら、本当に諦められるのに。

サクラは馬鹿なのか。また告白することにした。無理だとわかっていながら。何やってんだ。もう、これ以上傷つく必要はないだろ?でも、サクラはもう一度告白することにした。


サクラ「Yくん。やっぱりYくんのことが好き。」


Yくん「、、、。ごめん。僕は、君のことが嫌いだ。さようなら。」


サクラ「、、、さようなら。」


泣いてしまった。生まれて初めてだった。初めて人に嫌いと言われた。でも、これがYくんの優しさだと思った。ありがとう。

Yくんは、バンドマンだった。大学に行っても、社会人になっても、バンド活動を続けていた。曲のジャンルはロック。Yくんはベース担当。本格的な活動ではなかったけれど、ちょっとした音楽配信アプリには彼のバンドの曲が3曲アップされていた。MVも撮って、YouTubeに載せていた。全部聴いて、全部観た。毎日聴いて、毎日観た。

それから何年かして、YくんとIちゃんが付き合ったと知った。Iちゃんは、Yくん達のバンドのマネジメントをしているらしい。よかった。幸せになってくれて嬉しい。二人の幸せを誰よりも願っていたし、これからも願っている。

嫌いと言ってくれてありがとう。好きの反対は無関心だと聞いたことがあるし、サクラもそう思う。だから、「嫌い」は嬉しい言葉なのかもしれない。これでいい。


満月を見上げながら、スマホであなたのベースの音を聴く。胸が高鳴る。さようなら。私も君が嫌いです。



これがサクラのロックを聴く理由。もっと具体的に思い出せると思っていたけれど、もう何年も前のことで、意外と思い出せなくて少し安心した。




今は、あなたが好き。あなたたちが好きなんだ。愛しているんだ。月が綺麗ですね。

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