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もしも、こんな奴がいたら【第8話 平和な戦争】

サクラは、世界で1番平和な場所で戦争をしていた。今日は、戦うサクラに会いに行った。


「子どもが好きで、この仕事を選びました。」

サクラがいつも言っている決まり文句だ。でも、この決まり文句は真っ赤な嘘。子どもなんて好きじゃない。むしろ苦手なくらいだ。うるさいし、面倒な奴らだ。そもそもサクラは、人と関わるのもあまり好きじゃない。相手が大人でも子どもでも無駄に気を遣ってしまう。


じゃあ、なんで保育士なんかやってんだよ。って話しなのだが。


仕事として続けるのに苦ではないから。


これが本当の理由だ。【第5話 ピアノ】に出てくる憧れのお姉さん「まゆちゃん」の影響も少しだけある。でも、「苦ではない」という言葉が一番しっくりくる。サクラは、子どもという存在に興味がある。どうして、あんなボケが思い付くのだろう。天才すぎる。このまま成長して、全員プロの芸人さんになってほしいくらいだ。


好きの対義語は嫌い。サクラは違うと思っている。好きの対義語は「無関心」だ。サクラは子どものことを面白いと思っている。興味がある。だから、無関心ではない。無関心なことって、そもそも興味がないから仕事にしようと思わない。まず選択肢に出てこない。


保育士、幼稚園教諭。この資格は選択肢に出てくる。だから、この仕事を選んだ。毎日毎日、奴らは保育園にやってくる。ご飯を食べ散らかし、床にうんちをすることもある。お腹が空いたり眠かったりすると泣く。機嫌が悪いと泣く。遊びたい遊具で遊べなくても泣く。喋れるようになると、突然自分の話しを始める。もっと喋れるようになると、余計なことを言い出す。常にうるさい。


なんて迷惑な奴らなんだ。


子どもは可愛いなんて、他人事だから言えることだ。育てる責任がある。責任のある対象を可愛いなんて思わない。よく孫が可愛いと言うが、そういうことだ。


でも、面白い。


奴らは笑う。誰かが笑えば笑う。突然、晴れた昼の空を指差して、「先生、みてみて花火!」と言い出した奴がいた。薬でも盛られてるのかと思ってしまった。

三輪車の絵本を読んであげ、三輪車を漕ぐ音を「キコキコ」と教えてやった。そしたら、「コキコ」と間違えて覚えやがって、次の日から三輪車を見ると「コキコ」と言うようになった。「キコキコだよ」と教え直したが、今度は「キキコ」になってしまった。今度は何て言うかな。次はキロロかな。


とにかく面白い奴らだ。悔しいな。こいつらが大人になって面白くなくなってしまうんだろ?面白いことは考えないと思い浮かばないんだろ?悔しすぎるよ。もう、大人になんてなるな。一生、お前たちは2歳児のままでいい。そのままで稼げる仕事があるから大丈夫だ。芸人という人を笑わせるだけのシンプルな仕事があるんだ。お前たち、それ得意だろ?


そんでもって、私たちも大人になんて、なりきらなくていい。誰かが笑ったから一緒に笑えばいい。自分だけが笑ったっていい。周りを見てから笑うようになったのは、いつからだろう。


でも、残念ながら大人になる。大人になって、少しつまらないことが増える。毎日は笑えない。大人になるまで、もう少し時間があるから、それまでに沢山笑っておけ。大人になると毎日の戦争が待っているから。仕事、家事、手続き、、、。あと、子育ても。今度はお前たちの戦争が待っている。全然、笑顔になれない。お前たちは笑っているけれど。


こっちは毎日が戦争だよ。常に気を張ってないと、お前らが何を起こすかわからないから。


日本って平和な国なんじゃないの?


平和さ。お前たち子どもがいる限り永遠に。



サクラは毎日、平和な戦争をしている。明日も明後日も、この戦争は終わらない。みんなそれぞれの戦争も終わらない。でも、この平和な戦争は終わらなくていい。終わらせないでくれ。


どうか明日も戦場へ来てくれ。待っているよ。いつでも準備はできている。お母さん、お父さんの戦争が休戦になっているとき、サクラたちは戦争をする。そしてお迎えが来たら、今度はサクラたちが休戦になる。これの繰り返し。


サクラは、この仕事を選んでよかったと思っている。死ぬ前に天職だったと言えたらいいな。毎日が戦争だけど、全く苦じゃない。平和な戦争なんだ。子育てをする全てのお母さん、お父さん、お家の方々。休戦は大切だ。子どもを可愛いと思えません。当然だ。それだけ責任を持って育てている証拠だ。自信を持つべきだ。寝顔を見ると、安心するだろ?それだけでいい。サクラたちは、あなた方の休戦のために生きている。だから頼ってください。遠慮なんてしないで。何様なんだ。言い過ぎましたね。




あなたにも、あなたを見守る妖精がいます。きっと、今日もあなたを見守っているはずです。


いつか、あなたに届きますように。

そして、あなたの素晴らしさが世界中のみんなに伝わりますように。


私の心の陽射しへ感謝を込めて。









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