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もしも、こんな奴がいたら【最終話 手紙】
小さく控えめに光っていた星(サクラ)は、生涯その輝きをなくすことなく生き続けた。途中、輝きを失いそうになった。けれど、一筋の光に照らされてサクラは輝きを失わずに済んだ。星や月のように、光り輝くものたちは、太陽の光に照らされて輝いている。
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サクラ40歳。
妖精「ちゃんあす。」がサクラの最期を見届ける日がやってきた。
サクラは入院していた。40歳という若さにして余命半年と告げられていた。お医者さんからはダメだと言われていたけれど、サクラはこっそり中庭で煙草を吸うのが好きだった。ぼんやりと外の景色を眺めがら、サクラ自身もよくわからないことを考えていた。
煙を吸って空を仰ぐ。どんなに煙草の煙を吸っても、胸が満たされない。嗚呼、一緒に水素も吸い込んで肺の中を水で満たそうか。そしたら心が満たされるんじゃないか?いや、そしたら死んでしまう。まあ余命宣告されているし、いつどんな風に死んでも同じか。こんな意味のわからないことを考えていた。
ちゃんあす。の言う光とは、家族や友だち、自分の大切な人や推し、今まで関わってくれた全ての人のことだ。家族や友だちとは、ずっと悔いの残らないよう過ごしてきた。一期一会を大切にしてきたから、どんな人との想い出を想い返しても素敵なものばかりだ。
なんとなく推しのことが頭に浮かんで優しい気持ちになった。
あなたはサクラに夢をみさせてくれた。いや違う。夢は見るものじゃないと教えてくれた。いつもサクラのモチベーションを上げてくれた。夢を叶えさせてくれたんだ。感謝してもしきれないよ。
あなたに対する想いは、好きとか愛してるとか、そんな一言で愛を伝えられるような簡単なものではない。どうか明日も生きていてほしいと願うだけだ。明日も明後日も生きて、サクラのように多くの人々を笑顔にしてほしい。
まさかサクラの方が先に逝くことになるなんて想像もしていなかったけれど。本当に人生は何が起こるかわからないものだ。
もうペンを握る力すらなくなってしまったから、心の中から手紙を送ろう。手紙というか希望というか、とにかく想いを。
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"もしもサクラが死んだと知ったら、涙を一粒だけ流してくれませんか。ここで言う涙は、別に感情の入った涙を意味している訳ではありません。涙一粒分の気持ちという意味です。あなたが涙を一粒だけ流してくれたら、こんなにも嬉しいことはありません。たった一秒だけ一瞬だけ、感情が動いてくれたら嬉しいのです。あいつが死んだらしい。肌で春風を感じるくらいの感覚で、私を思い出してくれたら。
大丈夫です。サクラはあなたの心臓の一部にすぎません。毛細血管一本です。毛細血管の一本や二本がなくなっても、心臓は動かせます。だから、涙一粒を流してもらうために今日も伝え続けます。うん。ちょっと何言ってるのかわかりませんけども(笑)
手紙は生きている間にしか書けません。なので最期のお願いを書きました。今まで私に出会った全ての人へも同じ気持ちです。
サクラより。
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妖精ちゃんあす。の使命は、一人の人間を最期まで見守ること。サクラの心の手紙を世界へ届け、ちゃんあす。は使命を終えた。そして再び新しい星を見守る。
ずっと、ちゃんあす。の日記の最後に「いつかあなたの素晴らしさが世界へ伝わりますように。」と書いてきたが、実はサクラが生きているうちに既に伝わっていた。もう伝わっていたんだ。書き続けてきてよかった。
サクラの心の日射しへ感謝を込めて。