スマイレージとアンビバレント・アッコの進む道
アッコ26歳無職、元地下アイドル。
これはアッコによる、アンビバレントな"人生の夏休み"の記録である。
アッコはこの春、新卒で入って3年勤めた大手コンサルティングファームを退職した。
ただ人の役に立つのが好きだった。好きな人の笑顔を見るためだったらなんでも頑張れた。
でも、好きでもない、なんなら時にはファックと思ってしまうようなクライアントを相手には、なんでもはできなかった。 そう気付いてから、ただ作業をこなすマシーンになって心を失った。自分自身を摩耗しきる前に退職を選んだ。現在は貯めに貯めた有給を消化しながら、世間的にはちょっと長めの夏休みを満喫している。
アッコは地下アイドルをしていた頃を思い出す。
「私はキラキラしていて、人を喜ばせていた、その理由は若さだけじゃなかった、私は私が私であるということで誰かを幸せにできていた。それに比べると、会社勤めをしている私は可哀想なくらいちっぽけで、ひしゃげて、情けない存在のように思えた」
アッコはアイドルが好きだ。憧れの存在だった。だから自身もアイドルになった。
特にハロー!プロジェクトの前田憂佳が推しだった。
前田が所属したスマイレージはデビュー時から応援していて、地下でのライブ活動でもスマイレージのコピーユニットを組んでいたので、前田パートは歌詞も振り付けも完璧である。
前田が卒業してからもグループ名がアンジュルムに変わってからも、スマイレージ初期メンの和田が在籍しているうちはと思い応援を続けていた。その和田がこの春卒業を発表した。スマイレージは和田の卒業をもってその歴史を終えるのだ。
スマイレージは生まれ、消えていく。その間約10年。少女が大人の女性になるには十分な時間だ。それはアッコにとっても然りだった。いつまでもチヤホヤしてはもらえない。いつまでも夢見る少女ではいられない。いつまでもカラオケで甘い声で、「夢見る15歳」を歌ってはいられない。(名曲だが)
そしてしかしいつまでも、「かわいいねかわいいね」と言われて喜んではいられない、そう思っているのに、喜んでいたいと思う自分がいた。チヤホヤされたい自分がいた。26歳、アッコが夢見る15歳だった時に思い描いた「THE・大人」の年齢に十分達していて、来年には結婚する予定もあるというのに、少女でいたい気持ちにお別れができない。だってついこの間まで制服を着て歌って踊っていたのに。私とツーショットのチェキを撮るためには500円必要だったのに。急に大人の女になれだなんて無理だ、アイドルなんてキツい年齢だなんて言われても、ねえそんなのわかっちゃいるけど、だって私が女の子でいる気持ちは現役で制服を着ていた頃からひとつも変わってはいないのにーーー
と、同時に、大人の女性でありたいと思う気持ちもアッコの胸中には渦巻いていた。いつまでも若さにすがってはいられない、子供と大人の境目が見つけられないことを言い訳にしていたらイタイおばさんになってしまうから、わかっていた。知性と品性を兼ね揃えた成熟した女性は魅力的だし、そうなることを望んでもいた。しかしやはり、どうやって気持ちを切り替えればいいのかがアッコにはわからんのである。外見と社会的役割だけが、時間に逆らえず飲みこまれていく、時が、年が経っていく。
もう若くない。少女の気持ちを忘れたくない。大人になりたい。右腕と左腕を逆方向の強い力にひっぱられ、前を向きながら後ろ髪を引かれ、もはや制服の似合わなくなった肉付きの身体を持て余し、アッコは時の流れに弄ばれた。
「たっぷりなロングスカートを上品に着こなしたいとも思うけど、ショートパンツだって私は似合うんだよ。その年でよく脚出せるねって、努力もしないで諦めたあんたたちと一緒にしないでよオバサン」とムキになってはみても、日に日にショートパンツから見限られていくような気もちゃんとしている。時間は不可逆的に流れていくし、それに逆らいたいわけではないのだが、ただどうやってついていくのが正解かが分からない。しかし「もうオバサンだしさ〜」と自分を評価するのだけは違うとも思う。その類のことを言う人こそ、自分の価値は若さにしかなかったと若さにすがっているようにすら思えた。
高校生で早々とアイドルを降りた前田は、私を見たら笑うのだろうか。前田の白くて華奢な太ももにはショートパンツがとってもよく似合っていたものだけど、きっと上品なロングスカートを着てもかっこいいんだろうし、そもそもショートパンツに未練などないんだろう。
ショートパンツに未練のない人のロングスカートはかっこいい。
が、ショートパンツに未練のない人のショートパンツもかっこいいはず、とも思えた。
「いっぱいやんちゃして いっぱい学んで
失敗したって挫けないもん
怖い事が一個あるとしたら
それは この若さのパワーかも」(「ショートカット」song by スマイレージ)
そんなこと、もう全然思えないけど、これから先の人生の中で一番若いのは今。ごちゃごちゃ言ってないでやることをやるしかない。
アッコはアンチ・エイジングを始めた。