「汚ねえなあ ばあちゃん」を思い出す
冷蔵庫が ピーピーとドアが開いている警告音を鳴らしている
91歳のユキ江さんは 動作が鈍く 何をやるにも時間がかかる
冷蔵庫から 物を出す時ピーピー
冷蔵庫に 物を仕舞う時ピーピー
ユキ江さんが 冷蔵庫を開けると 必ず ピーピー と警告音が聞こえる
でも、ユキ江さんには ピーピー音は聞こえない
おかまいなしで どれだけピーピーと 冷蔵庫が知らせても
気が済むまで 庫内をゆっくり見回して 右のものを左に寄せたり
上の段にあるものを下の段に移したりするのである
声をかけてもどうせ聞こえないだろうから やりたいだけやらせていた
すると 暫くすると ピーピーと言う音は聞こえなくなった
そう 冷蔵庫が ユキ江さんの しつこさに 負けたのだ
こんな ユキ江さんの行動を 毎日 目の当たりにする 弟家族は
絶対に イライラしている はずだ
言ってもわからない 本人には聞こえてない だから通じない
説明する声はだんだん大きくなり 言葉は乱暴になってくる
何を怒っているのか わからないから ユキ江さんも 応戦する
そして その場の空気は 最悪になる
一時が万事 こんな調子だから
弟家族の 我慢も限界なのだ
それにしても 食欲旺盛だこと
ゆうべ 救急搬送された病人とは思えない
朝 呂律が回らなかったが 同居する 孫の名前だけは聞き取れた
それ以外は 異国の言語を聞いているようだった
それが 昼食を済ませたあとは 随分と聞き取りやすくなって来た
元気になったのは良いことなのだが
汚ねえなあ ばあちゃん
この調子だと 弟家族は この先しばらくは ユキ江さんに 振り回される
覚悟しておく必要がありそうだ
お昼ご飯を食べ終えたユキ江さんは だんだん調子が上がってきた
難解なお喋りに付き合わなければならないかな
面倒くさいなあ と 思いながら ユキ江さん に目をやった
救急に乗せられたり 検査したり 疲れたのだろう
テーブルに突っ伏して眠っている ベッドに連れて行こうか
気持良さそうに眠っているから 声をかけるのが憚れる
そこへ 弟がやってきた
すると 眠っていたユキ江さんは 起き上がった
弟に お昼ご飯を食べなさいと言う
不思議だ 弟の気配を 眠っていながら 察したのかな
絆は 血縁関係があるからといって 当然に存在するわけではなさそうだ
同じ屋根の下 衣 食 住 を共にするから 生まれる
実に 他者を寄せ付けない強固な存在だ
家族だから 親子だから 兄妹だからと言うだけで
誰もに 同様の 感情が 醸成されるわけではないのだ
近くに 居る
それだけで 唯一無二の 関係性が 生まれるのだろうか
それだけに 拗れると とことん 厄介な関係になってしまうのだ
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