「長生きは本当に幸せなのか」問答しつつ食事を届ける
牛乳たっぷりのクリームシチューと厚揚げの煮物を作った。柿を剥いて葡萄を洗いタッパーに詰めた。サツマイモはそろそろ焼き上がる。何を食べても美味しくないと言うユキ江さんが少しでも食べられるように用意した。
お嫁さんが出て行った家には、間も無く92歳になるユキ江さんと三男さんと孫の3人が暮らしている。今までは食事の支度はお嫁さんが担っていた。1年前は今より少し体が動いたユキ江さんは洗濯や掃除を担っていた。厳密には、三男さん家族はヨロヨロしながら朝からお昼過ぎまでベランダへ行ったり来たりするユキ江さんの洗濯行動にとても迷惑していた。危ないし、勝手にやっているのに「私がやらなきゃ誰がやるんだ」と、言い放ち、「ああ、もう〜、朝から何も食べてない。お腹が空いてフラフラする」と毒を吐きながら家族の平和を乱していた。ユキ江さんに洗濯を任せるのは良くないと考えていたのだった。でも、ユキ江さんは自分の役割だと譲らなかった。
お嫁さんが作る食事が気に入らないと、出された料理にテイッシュペーパーや楊枝を投げ入れ手を付けようとしなかったらしい。かなり強烈な嫁いびりだったと思う。
そんなユキ江さんは、1年後の今、筋力が一気に衰えて洗濯できるほど動き回れる状態ではなくなった。高齢者の1年は早い。1年で体力は落ち外見は大きな変貌を遂げてしまう。悲しい。
お嫁さんが出て行ってから、料理を担う者がいなくなった。三男さんはこの状況を作ったユキ江さんを憎んでいる。孫は文句を言いながらユキ江さんの世話をしている。家族3人の食生活は非健康的な状態と化した。
そんな事情から、チンすれば食べられる状態にして料理を届けているという訳である。
「家族なのだから世話するのは当たり前」と言う世の中ではなくなったとケアマネジャーさんが教えてくれた。とても気が楽になった。
ユキ江さんの年代では、子は親を見て当たり前と認識している。親を敬え、大事にしろと思っている事が態度で伝わってくる。
もちろん、そうするのが好ましいと言えるだろう。でも、絶対とは言えないのではと思う。高齢になり、頑固になったり、暴言を吐いたり、厄介で手のかかる年寄りを相手にするのは大変な事だ。労られることばかり求める高齢者を、誰もが親だからと言って愛情を持って世話すべきだと咎められるのは、辛いことだ。
ユキ江さんにはもう時間がない。
三男さんも、出て行ったお嫁さんも含めて、どうすることが家族の幸せなのかを理解してくれると良いのだけれど。
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