きょうのイト子さん
夫と2人で、イト子さんに会いに行った。
きょうはカラオケ大会があるというので会場になるレストラン前には待ち切れない入居者が詰め掛けていた。イト子さんもその中にいた。
しかし、その輪に入ってよくよく話を聞いていたら、カラオケ大会ではなくて、トランプ大会だという人がいた。
近くの伝言板を確認したが、どこにもトランプの文字は見当たらず、どちらが正しいのかわからず集まった人達もザワザワしてきた。
そこで、通りかかったスタッフさんに
「きょうはカラオケですか?それともトランプですか?」
と尋ねたところ、
「きょうはカラオケですよ」
と教えてくれた。
「でも、始まるまでまだ30分以上はあるのもう少し待っていてくださいね」
イト子さんに、
「まだ始まるまで時間があるみたいだから、ラウンジに行きましょうか」
と、声をかけた。しかし、イト子さんは、集まっている仲間とのお喋りが楽しいらしく動こうとしない。
そこで夫と私はラウンジでコーヒーを飲みながら待つことにした。
「イト子さん ラウンジに行ってますね」
と声を掛けると、イト子さんは了解とでも言うように手を振った。
少しすると、男性の歌声が聞こえてきた。カラオケ開始時刻まで待ち切れない歌好きさんが、自分で機械操作をして早々に始めてしまったようだ。
ここはそんなフライングも許されるのだ。
イト子さん、ホームにすっかり馴染んでいる。
入居当時は、ホームの一日が、どのように過ぎていくのか気掛かりだった。退屈していないだろうか、寂しくないだろうか、夜は眠れるだろうか、食事は摂れているだろうかと考えたらきりが無い。月毎の予定表や献立表は郵送されてくる。ホームも色々とイベントを考えてくれているけれど、それでも退屈だろうと思っていたのだ。
でも、そんな心配は無用だった。
イト子さん ふっくらしちゃって。
ズボンのサイズ上げなくちゃならないかなぁ。
それでも時々不意に言うのだ。
「いつまでここに居ればいいのかしら」と。
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