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【短編】朝が来る

窓を開けた。つん、と昨晩雨が降ったことを知らせる嫌な匂いが鼻をついた。ベランダに出ると一階から見えるすぐそばに、紫陽花が咲いていた。色とりどりで規則正しいその花たちの集合体が何故か気持ち悪くて、見ているだけで吐きそうだった。
朝は苦手だ。こうして目を覚まして、朝のにおいを嗅ぐだけで気分が害される。えづきそうになって、咄嗟に窓を締める。もう、見なくていい。朝は見たくない。そう思いながら、私は遮光カーテンを締めると振り返った。背後に化け物でも潜んでいるかのように、ゆっくりとした足取りで、洗面台へ向かう。
鏡を見ると、相変わらず嫌な顔だ。ふ、と自嘲的にでも笑いそうになって、その膨らんだ頬と不器用な唇のアンバランスさが気持ち悪くて、タオルで顔を擦った。何もなかったかのように、顔も洗わず、自室へと戻る。自室にはベランダがある。一階にあるベランダだ。ここからは飛べない。飛んだとして、通行人に目撃されてはおかしな住民だと認識されるだけだろう。死ねもしないのに、生き地獄を味わうなんて嫌だ。俺はとっくにおかしいんだ。殺してくれ。殺してくれ。殺してくれ。そう願いながら、ベランダに背を向けて寝た。深めのマットレスは、自身の体重を押し込まれて窮屈そうにしていた。サイズの合わない布団がごわごわと、膨らんでいた。朝が来ている。朝が、すぐそこにいる。化け物に出逢わないよう、今日もまた、夜を目指して私は目を瞑った。

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