見出し画像

【解説】fleur



別記事にて掲載した、オリジナル小説fleurの解説

※独自の解釈を広げたい方は見ないでください。
※本編を読んで、あまり意味がわからなかった人、真相が知りたい人は読むことをお勧めします。


もともと家族は4人構成。母、父、兄、弟。
母と父は自宅にて火災で死んでいる。

兄は頭がよく成績優秀で、フランスへ留学をしており家に不在。弟も出掛けており、父と母のみが家へ居た時に火災は起きた。

弟は兄と違い、何もかもが不出来なため、両親は兄をよく可愛がった。やりたいことをなんでもさせた。兄がフランスへ留学して視野を広げたい、憧れのフランスへ留学したいと言った時何の反対もせずに送り出した。
弟はそんな兄に引け目を感じて暮らしていた。両親から弟に向けられる視線は冷たく、弟は家庭に居場所がないと感じていた。帰る家がないとさえ。兄が留学してからというもの、両親の目はさらに冷たくなった。厳しくもされないし甘やかされもしない、放任された。ただ弟は兄に出来るだけ近づきたく、自ら貯めた小遣いで塾に通うことにした。そのため、帰りはいつも遅かった。火事が起きたのは弟が塾に行っていた時間。弟にとって、塾にいる時は家族と会話をしなくても良いし目を合わせることもないし、冷たい目を向けられることもないので気が楽だった。

火災の原因はわからず、両親は跡形もない遺体になった。

兄は慌てて帰国し、両親の死を悲しんだが、弟は泣けなかった。実の両親が亡くなっても泣けなかった。

それから兄は、もう家族は弟しかいなくなったので、せめて一緒に暮らそうと提案した。行く宛のない弟は、その言葉に乗った。弟は兄が嫌いではなかった。嫉妬はしていたけれど、それは兄が優秀だからであり、あくまでも自分を惨めな気持ちにさせたのは両親だ。弟にとっての家族は、兄だけだった。


兄は最初こそ弟の世話を焼いていたが、それも脆くなっていった。火災と両親の死から3ヶ月経ったころ、兄はPTSDを発症した。本人に自覚はなかったが、弟は、だんだん兄が何かに怯えたり泣き崩れているのをひそりと目撃する場面に出くわす。
兄が自分に固執していくのがわかっていた。
家族はもう自分以外には居ないのだと、縋りつかれた気分だった。
いつも見上げていた兄が、その時とても滑稽に見えた。いつもの兄の姿ではなかった。
自分は兄より上の存在であり、兄は自分なくして生きていけないのだと悟った。

兄の症状は進行した。適切な治療を受けなかったのは、兄が弟を守りたい一心で、ひとときも弟のそばを離れたくなかったからである。入院してもおかしくないほど、その頃には妄想癖が強くなった。また、強い苛立ちや不安を覚えた。

ある日、弟は兄を救おうと、救いたいと思い、すべてを自白した。

自分が兄に引け目を感じていたこと。両親をよく思っていなかったこと。自分の小遣いで塾に通っていたためいつも帰りが遅かったこと。両親の目が自分に冷たかったこと。自分が火災に気づいたのはもう消防団が到着し、家の周りに野次馬が出来た頃だったこと。


兄はてっきり、弟も火災に巻き込まれたと勘違いしていたのだ。そして命からがら通報したのは弟なのだと、信じ切っていた。

だからその真実を知った時、自分が両親のそばにいられなかった罪、弟が意図的に両親から距離を取っていた罪、両親が弟にだけ冷たい目を向けていた罪を抱え、兄の理性は崩壊した。


最も愛している家族が亡くなり、最も愛している家族のせいで家族を亡くし、最も愛している家族を救えなかった自分。弟と両親の関係に気がつかなかった自分。すべてが一気に兄に襲いかかった。


弟は、自分のせいだと兄に伝えたかったのに、兄はそう解釈してくれなかった。相互間で解釈が一致せず、兄は自罰的な一面と、家族を恨む一面の両面を持つ二重人格のような性格になってしまった。

一方ではただひとりの家族である弟を守りたい気持ちが、一方では家族の大事に気づかなかった弟を責めたい気持ちが、一方では弟を邪険にしていた故人である両親を責めきれない気持ちが、彼をぐちゃぐちゃにした。


兄はこれらの理由によって、弟に依存しながら、常に自分を責めながら、同時に弟を責め、共に罪を被ることで己を落ち着かせる術を知ってしまった。


兄弟間で絶対に行ってはいけない、セックスをすることで、兄はタブーを犯し、自分が悪い人間だと、自分を責めることで納得するようになった。

弟は最初こそ激しく抵抗していたが、力が敵わない相手、そして自分が罪を告白してしまったことで更に様子のおかしくなった兄に何も言えず、ただ受け入れている。

共依存をえがきました。

fleurというのは、フランス語で「花」
もちろん、弟には普通の日本人の名前があります。兄にもそうです。ですが兄は弟を「フルー」と呼びます。実名で呼ぶことで、弟への憎悪(抱いてはいけない感情)や、失った両親のことを思い出してしまうから、それを閉じ込めたいのです。
兄は、弟にも、生まれ変わって別人のように過ごしてもらうことを望んでいます。

兄にとって弟はたったひとりの家族であり守り育てるべき存在であり、月日が経てば枯れ果ていつかは命を失う尊い存在、fleur(花)なのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?