夕泣き
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年がバレて最初の店で働けなくなった私は、知り合いの紹介で前回の繁華街よりももう少し年齢層の高い雰囲気の繁華街の飲み屋で働くことになった。そこでの源氏名は「千春」になった。その頃の私は当時人気だった新山千春に似ているとたまに言われていたので、そのノリでつけられたのだろう。そこでも週に4回くらい18才と言って働いた。そこの店は1年くらい続いた。そして高校にも入学した。家庭環境も親も育ちも悪く、お金がない私は高校に行ってなかったので、17才で高校1年生になったわけだ。ちょうど出来たばかりの単位制の県立高校だったので、私の少ない収入でも、登校数が少なくても通える高校だった。高校では仲が良い友達が一人出来て、仕事の時以外はほとんど一緒に過ごし、「ああ、この頃が青春と呼ぶような時期だった」と後になって思う。
私は彼氏が出来ても長く続かなかった。すぐに相手に飽きてしまうのだ。他の女友達のような甘くときめく気持ちなんて生まれなかった。「嫌いじゃないけど飽きたから別れたい」と、なんてひどい言い方なんだろうと自分で思いながらもそう伝えた。そしてそのうち「付き合う」ってことをやめた。私にはそのシステムが無理だと思ったのだ。ただ相手を傷つけるだけだと思った。普通の若者みたいに、「彼氏、彼女」とかやってみたいだけの興味で繰り返しただけだったので、もう充分だと思った。
恋人という概念は私にとってイコール運命の王子様的なたった一人のことだと強く根付いていて、それ以外の異性との付き合いは暇潰しや経験値のレベル上げのような感覚だったと思う。私はよく同性に嫌われ疎外されたが、異性には奇妙な人気があった。好感、という柔らかいものではなく、執着の部類に入るような粘着質な人気が多かった。それは私の方に問題があるように思えた。幼い頃からよく「変な子」と言って苛められたことや「普通の事言わないから怖い」と言って同性に仲良くしてもらえないこともそれに関係していると思う。顔立ちは平均的で背は低めで華奢で色が白かった。背のわりに足が長いような気がしたが、手のひらと足のサイズがかなり大きいのが言うならばコンプレックスで、総合して特に特徴はないような気がする。数少ない友人がよく私のことを「生まれ持った魔性」だの「白亜種」だのと言っていたが、自分では自分に流れている血を抜いて入れ替えたいくらい自分が嫌いだったのでよくわからなかった。愛せない自分を崇拝的に愛してくれる異性、だけどもそこには私が「愛」だと確信して満たされるような感覚がなかった。ある瞬間、本質では私は、本当は男というものを憎んでいるのだと気付いた。それでも運命の相手や究極の愛はあるんじゃないかと信じている乙女チックな部分は持ち続けていた。