金木犀の通学路
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バブルが崩壊し、父の会社は窮地に陥った。ものすごい額の借金を抱え、母を保証人にして金を借り、更に母自身にも借金を抱えさえ、更に母の実家(私のじいちゃんばあちゃん)の金まで盗るようになった。じいちゃんとばあちゃんは田舎の真面目な人だったのに。唯一私を可愛がってくれていたのに、そこからすべてが崩壊しだした。じいちゃんはすぐに死んだ。ばあちゃんは父を憎みながら、父にそっくりな私に恨み言を言うようになった。母は父と共に逃避行した。
それでも私は生きていて、ある夏の日、アイスキャンディを食べながら道を歩いていた。私の横に車が横付けされ、見ると父だった。私は意味がわからないまま車に乗せられた。アイスキャンディを食べながら連れて行かれた先は、変な家だった。表札に「~系~組」とよくテレビのニュースで見る堅気じゃないのだけがわかる場所だった。
嫌な予感はしたけど逃げることもできなかった私は父と一緒にその家に入ることになった。外観は洋風、でもインテリア?(刀とか壺とか)は和風で、間取りにも違和感を感じた。シャンデリアなのに、畳、とか。変な位置に襖、とか。一刻も早く抜け出したくなった。なぜ私はのこのこと父の車に乗ってしまったのだろう。良いことなんかあるはずもないのに。迂闊だった。
組長的な人が出て来て、その息子らしき人も登場した。逃げ出そうにも、周りは下っ端のチンピラみたいな兄ちゃんたちが続々取り囲んでる。
私はTシャツに短パン、スッピン、アイスキャンディの棒を咥えているただの無防備な子供だ。何より問題なのは、父が私を大事に思っているわけがないことだった。
父は饒舌に何かを説明していた。気持ち悪いことに、媚びた様子まで伝わった。組長の息子は私をチラチラ見ていた。組長は私と息子を交互に見ていた。
結果だけ言うと、私は組長の息子のおもちゃとして差し出されたのだった。最初はそのつもりがなかった(はず)父も、バブルの最中に建てた自分の家をなるべく早急になるべく早く現金にしたかったのだ。そこでマージンみたいな形で突如私が差し出されたワケである。その日から私はそのアンバランスな家に軟禁されることになった。私はまだ16だった。
マモルのせいで私は処女ではなかったのでショックは最低限のもので済んだ。それに組長の息子は悪い人ではなかった。親の育て方のせいで傲慢気味ではあったけど、ちゃんと愛情を受けて育った正常さが、育ちの良さがあったし、私にもある程度は親切にしてくれた。私をおもちゃにしたいと言うより、純粋に自分のものにしたいというただの人間としてのレベルの欲で、それが父親の権限によって簡単に叶っただけにすぎない、そういう感じだった。