金木犀の通学路
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私は完全に夜型の人間だ。夜にしか生きられない。太陽の下では思考回路もはっきりしない。ドラキュラみたいだ。
私は残念なことにドラキュラではなくて、ホステスだけど。
起きたらシャワーを浴びて、下着姿のまま化粧をする。薄っぺらい顔がどんどん立体的に、派手な女の顔になる。もちろん男が好みそうな顔に寄せて造っていく。そして服を着る。曜日や気分や今日来る予定のお客さんに合わせて服は選ぶ。もちろん、勤める店によってドレス限定なこともあるが、私はだいたい普通のランクの気軽なお店を選んで働くのでそんなに厳しくはない。何度か高級クラブにも挑戦してみたけど、どうも合わない。給料は高くても、ものすごく疲れて結局割に合わない気もするし、長続きしないと思う。
今日は白と水色のミニのワンピースにしよう。なんとなく、柔らかくほんわかとしていたい気分だから、髪も緩い巻きにしよう、そう決めて用意していくうちに頭ははっきりしてくる。
家の玄関を出るころには完全に仕事モードだ。
繁華街の大通りを店に向かって歩いているとき、たまに頭に浮かぶメロディがある。
いつのまにかこの街にまるめこまれ、でも止まれないこの世界で胸を張って生きるしかない、そんな歌だ。
今日は同伴がない、もしアフターがあるのならどんな種類の店になるのだろう、もしそのまま帰れるなら、何をしよう、誰かと会おうか。私にはほとんど女友達がいないので、遊ぶのはいつもボーイフレンドの誰かだけど。みんなそれなりに優しいしそれなりに楽しい。ひとりの人と長くいることもあれば、毎回違う相手と過ごすこともある。つまり気分や流れに任せて適当。だって特定の相手と付き合うことはしたくない。自由でいたい。でもそれはかっこいいことでもないし、胸を張れることでもない。でも今はそうするのが私は私に正直だった。