見出し画像

彷徨う白くて長い脚

   「優位」

 彼に会えるのは、彼の気が向いたときだけ。約束はしない。時間も予告してくれない。ただその日に電話があって「今日行けたら行くから」と言って切れる。私はそれが昼なのか夕方なのか夜なのかもわからない。わからないけど、彼は私がお酒と薬を飲んでない状態でしか会わないと言う。例え朝かかってきた電話で会いに行くと言われてそれが実際は真夜中であったとしても私はどこにも出かけず予定も作らず、部屋の中で薬もお酒も飲まずに震える体を丸めて待っている。じっと時間が流れるのを待つ。私は倦怠感が抜けない不健康な体と重い頭で鳴らない携帯を前に怯える。私のせいだと彼は言う。すべて私のせい。こうなったのは、積み重ねた時間を、育てたものを、すべて私が壊したせいだと彼は言う。「そうかもしれない」と私も思う。反論する気力もない私は、何度も言われるうちにもしかしてそうかもしれないと思えてくる。きっと、たぶん、やっぱり、私のせいだと。
 会ったら毎回私は泣かされる。彼の確信的な言葉や態度で。私の言動や仕草すべてが彼を苛立たせるのだ。私の返事や表情すべてが。おかしいのは私が泣いてからの態度で、彼はそれまでと逆に急に優しく私に触れる。「泣くな。メソメソするな」と言って、髪や頬に優しく触れてくれる。そのことにわたしはまた泣く。理不尽さや嬉しさや無気力やいろんな複雑さが押し寄せてくる。彼が泣き顔にしか安心感を覚えない性癖じゃないのならば、これは一体何のために行われる儀式なのか。

いいなと思ったら応援しよう!