季節の美しさに出会うために、喜んで年を重ねたい。
「桜が咲いたら、会いましょう」
何気ない会話から、想像の蕾が膨らんだ。わたしたち人間は、桜を見ずに花見をする。そのために日程を、早くから固定しようとする。桜はそんな人間たちの事情を知らない。一生知らないでいてほしい。彼らの好きな時に咲いてほしい、というわたしの勝手な願い。美しいものを見ると、永遠にそのままでいてほしい。誰から何を言われようと、あなたの道を突き進んでほしい。変わらずにいてほしい。そう願う。潔い人を見ると同じことを感じる。そんな人と、桜を眺めることができたら、嬉しさでスキップをしてしまう。
けれど、雨は御構い無しに花びらを濡らす。風は容赦なしに花吹雪を起こす。悲しいけれど、そうやって季節のバトンを、次に渡していってほしい。いずれ花が散り、若葉が芽をだす。葉桜の初々しい翠を見つけて、これまた美しいものが世界に顔をのぞかせたなぁと感心する。少しすればハナミズキが咲く。咲く花が変われば、風の匂いも変わる。月を見上げて想う人も変わるだろう。そして紫陽花がさく。鎌倉で過ごした19才の初夏が恋しくなる。
季節の巡りを、わたしたちにはコントロールできない。山の桜はプラスチックではないのだから。天気予報は外れるし、地震のメカニズムは未だに解明されていない。昨日、10年ぶりに再開した友人は、東北大の院で火山の勉強をしていたそうだ。穴の空いた石を集めるのが好きだけど、なぜそれが好きなのかは言葉にできない。世界には、わからないことが未だにたくさんある。けれど、わからずとも好きになることはできる。知らないこと、わからないことが、たくさんある。それなのに、一度読んだだけの本をわかった気になり、他人の悲しみに安易に「わかるよ」などと口を挟んでしまう。
春は、いつわたしを尋ねたのだろう。いや、もう春なのだろうか。3丁目にはきているけれど、5丁目のマンションの花壇は冬ってこともあり得るだろう。少しづつ、春は世界を彩りはじめている。しかし、その透明な筆使いは、年ごとに異なるように見受けられる。わたしたち人間は、毎年誕生日が規則正しくくるように感じている。けれど、体感時間は毎年違うし、去年のわたしのカラダを形作っていた細胞と、今のそれは一体何%が同一なんだろう。脳内のシナプスは、ものすごい速さで生まれ変わり、たくさんを忘却していった。今年はうるう年だ。その1日の差分を、この肌は感じ取れているのだろうか。昨日歩いた路地は、今日はもっと暖かい。知らない花の蕾が開きはじめていた。毎日がはじめましての連続のはずなのに、ついわかった気で町を歩いている。
今日は、そうやって解像度が高くを飛行する1日だった。朝起きてから、夜眠るまで。1分1秒の中に潜り込んでみたい。こうやって、季節の移り変わりに、新しい作品のことを考えている。桜が咲いたら、小田原の新居で展示をしたい。そこは桜の名所で、ちょっと山を登れば海が望める。高台から、桜、海、柑橘畑、民家がおりなす風景があるはずだ。けれど、ぼくはまだそれを知らない。その風景に感嘆すれば、どう想うんだ。「知らなかった土地で、はじめての季節に出会った」なんて、想うのか。その桜は、東京からは新幹線でなら30分で来れる場所にある。小田急線でも2時間、ロマンスカーにはじめて乗ってきてくれたら、随分嬉しい。この距離を、遠いと感じるかは人それぞれ。しかし、春も夏も、2時間ではたどり着けない。季節の美しさに出会うためには、時間を喜ぶ必要がある。そうやって、年を重ねていきたい。
PS ひとつ、私の企画を紹介させてください。私は普段、美術家・写真家として活動しています。この度、卒業式が中止になった方々に向けて写真家として手伝えることを考えました。
春は、卒業式をはじめとした別れの季節であり、次の出会いに向けて新しいスタートになる晴れ晴れしい季節です。普段の撮影の半値ほどで、撮影を提供させていただきます。私自身も、コロナの影響で撮影の仕事がいくつかキャンセルになりました。様々なものが自粛される中で、「祝う」ということまでも自粛されてしまうことは、個人的にとても残念でなりません。
あなたの大切な時間を、写真という形で未来に継いでいくためのお手伝いをします。制服や、スーツ。振袖や袴をはじめ、じぶんのことを素敵だと思える服装で、じぶんにとって大切な場所で、記念の撮影をしませんか。大切なご友人や、家族と一緒に。それはずっとずっと残るものです。人生の折々で見返すことになる、大切な一枚です。
写真を生業としてしているものとして、可能な限りのお手伝いをします。以下のnoteに「これまで撮影した写真」「料金」「過去の作品」などを記載しています。お知り合いの方で、写真を必要としている方がいましたら、ぜひご紹介いただければ幸いです。
いただいたサポートは、これまでためらっていた写真のプリントなど、制作の補助に使わせていただきます。本当に感謝しています。