お年玉ゲーム 2023
「あや、お年玉ゲームをしよう」
ヨレヨレのジャージを着た親戚のおじさんが、わたしの目の前にドスんと胡座をかいて座った。悪戯な顔をして笑うおじさんが、わたしは前から少し苦手だ。
「ゲーム?」わたしは反射的にのけ反ってしまった。
「あやももう十歳だろう?このくらいのゲームは理解できるはずだ。でも、お母さんには内緒だぞ」
おじさんはニヤっと笑い、わたしの前に赤いポチ袋と白いポチ袋を並べた。
「ここにあやへのお年玉が入っている。どちらか好きな方を選ぶといい。ただし、どちらかには千円が入っている。そしてもう一方には千円以上が入っている。いくら入っているのかは教えられない。このどちらかを選べば千円か千円以上が手に入る。
しかし、俺はもう一袋持っている。この花柄の袋には五千円が入っている。二択をやめてこれを選んでもいい。
この場にあるのが五千円が最高額かもしれないし、それ以上の額が、赤い袋か白い袋のどちらかにあるのかもしれない。
お年玉を二択のミスで千円にする可能性があるのなら、二択の選択を辞めて、確実に五千円を手にすることもできる。さあ、あやはどれを選ぶ?」
おじさんが本性を現したかのように笑い、なにか面白いものを見るようにじっとわたしを観察している。その眼を見て、フクロウが獲物を狩る映像を授業で観たのをわたしは思い出した。
おじさんは忘れているかもしれないけれど、おじさんは五千円以上のお年玉をくれたことがない。だから、五千円以上のお年玉をくれるなんて考えられない。でも、もし今年は奮発してくれていたら……。千円か五千円かそれ以上かそれ以下か。こういう時はどうしたらいいんだろう?
「なんだ?まだ決まらないのか?」
おじさんの指に挟まれた花柄の袋がヒラヒラと魅惑的に揺れている。こんなのただの運じゃん。あーあ、超能力が使えたらいいのに。
赤い袋と白い袋を交互に凝視してみる。が、全くわからない。厚みも全く一緒だ。赤かな?白かな?白っぽいな。うーん、考えてもしょうがない。
「それ」
わたしは花柄の袋を指差した。
「これでいいんだな?」
おじさんの右の眉毛がクイっと上がった。
「うん」
「はい。どうぞ」
「ありがとう」
わたしは花柄の袋を両手で受け取った。五千円が確実に手に入った。間違って千円を手に入れるより、これで良かったんだ。
おじさんが白い袋を手に取り、中身を広げて見せた。そこにはあったのは千円札だった。良かった!白を選ばなくて!わたしは力が抜けるようにホッとした。
次におじさんは赤い袋に手を伸ばした。わたしも中身が気になってしょうがない。でも、できれば知りたくない。そんな気持ちなんてどうでもいいというふうに、おじさんは赤い袋から隠すように中身を取り出した。どうか二千円か五千円でありますように。ゆっくり広げたお金はなんと一万円札だった!えっ、ウソ……。わたしはさらに身体から力が抜け、呆然とした。
「あやなら五千円を選ぶと思ったよ。俺の勝ちだな」
おじさんは満足気にお金とポチ袋をヨレヨレのジャージのポケットに突っ込んだ。
「俺なら、触っていいか?とか、重さを計ってもいいか?とか聞くけどな」
と得意気に言いながら、おじさんはヨッと立ち上がった。
触ってもいいか?とか聞いてもいいルール知らないし。あームカつく!
「ねえ、おじさん」
「ん?」
「来年、また勝負しよ」
「いいぞ。ただ、来年は一万円が入っているとは限らないぞ」
来年は絶対出し抜いてやる。
こうしておじさんとわたしのお年玉を賭けた戦いが幕を開けた。
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