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山に遊ぶ2019夏・秋

きのこについて学び始めたのは、去年の9月頃のことだ。つまり、春~夏のきのこというのは、全くの手探りの状態で探さなければならない。
去年はメジャーなきのこに狙いを定めて探すようにしていた。ヤマケイの『日本のきのこ』という分厚い図鑑を手に入れたので、今年はあえてしぼらずに、見つけて気になったきのこを写真に納め、帰ってから同定作業を試みるというプロセスを取ってみた。
きのこの同定は非常に難しい。見えているものは子実体で、植物でいうところの花の部分だけなのだ。本体は糸状の菌糸なので、個体差が非常に激しく、似ているものも多い。
なので、中には同定に自信のないものもある。

きのこの面白いところは、昨日そこになかったものが、今日はあるという予想のつかなさがひとつ。例えば野草とかであれば、芽生えを見つければ、1カ月後に来ても彼らはそこにいる。しかしきのこは、早ければ1日2日で流れて消えてしまう。
とはいえ予想が全くつかないわけではない。気温を見定めることと、雨後に狙いを定めることで、ある程度の予測は可能だ。戦略がうまくハマった時の喜びというのは、何をやっていても楽しいものだ。
もうひとつは、そのような戦略から外れた発見が多いということ。狙っていたものと全く違ったきのこの群生を発見したり、野草や粘菌などを発見したり、美しい景色や現象に遭遇したり……。
そのようなセレンディピティを求めた先のインプットというものは、自分の中で何か尊い、終わりなき探求を与えてくれているような気がしている。

7月

気温が上昇傾向であるこの時期はまだ、きのこもまばらで、地味で小さなものが多い。

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コショウイグチ。これから夏にかけては、ベニタケ科とイグチ科のきのこを非常によく見かける。イグチ科は傘がヒダではなく管孔と呼ばれる、穴のあいたスポンジ状になっているのが最大の特徴である。
きのこの名前の多くは、非常に安直に付けられたものが多い。このコショウイグチは、かじると強烈な辛味があるのでこの名前になったとされる。
しかし7月はこれといったきのこはあまりなく、山に行くこともあまりなかった。

8月

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8月中旬。シラカバの生えているあたりを歩いていると、地面からマイクが突き出していた。それもとびきり大きいものが。
アカヤマドリの幼菌である。これは傘が開くと20cm以上になり、ひび割れたようになるため、しばしばパンなどと呼ばれる。
優秀な食菌として知られるので、オリーブオイルで炒めて食べてみたところ、ほのかにナッツのような芳香があり、傘はやわらかく、軸はジャキジャキとしていて、とてもおいしく、食感も楽しめるきのこだった。
その後も別の場所で何度か見かけたが、腐って流れているものばかりだった。夏のきのこはとにかく成長が早い。発生して3日も経てば旬が過ぎてしまうようなものばかりだ。

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きのこはあまり知らないという人でも、タマゴタケは聞いたことがあるという人は多いのではないだろうか。多くの樹種から発生し、夏を代表するきのこと言ってもいい。
去年、家の近所でタマゴタケを見つけたのがきっかけで、きのこに興味を持つようになった。なのでこのきのこに対する思い入れは強い。

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木陰にたたずむ姿はとても美しく、傘のふちの条線と、細い柄に気品を感じる。

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タマゴタケという名の由来は、根元にある白いツボの中から出てくることからだと思われる。似たようなツボは同じテングタケ科のきのこによく見られるものであるが、ここまで玉子に似たものはあまりないように思う。触ってみてもゆで卵の白身の感触と似ていて、食欲が刺激される。テングタケやベニテングタケなどは、この白い保護膜部分が成長とともに傘の上で分離し、イボになる。
タマゴタケも優秀な食菌である。テングタケ科のきのこは、ドクツルタケなどに代表される、恐ろしい毒きのこが乱立する殺戮天使の科であり、目のつくもののほとんどが毒きのこである。
しかしタマゴタケはその中にあって無毒で、濃厚なチーズのようなうまみを持ったきのこだ。
眺めてよし、食べてよしと、人気になるのもうなずけるきのこ。

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これは写真を撮った時はテングタケと思っていたのだが、よくよく見るとガンタケと思われる。(自信なし)

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トドマツ林の林道。トドマツは多くの菌根菌のホストになる優秀な木で、テングタケ科、イグチ科と共生していることが多い。
特にタマゴタケの発生率が非常に高く、この辺りを見回せば赤い丸をよく見かける。

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このような道を歩いていると気持ちいいのだが、かなりの頻度でアブが周りを飛び回るのでせわしない。

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タケリタケ。何がとは言わないが、実に猛っているきのこである。最初にこれを見かけた時、裏を見るとヒダも何もないので、イグチ科の幼菌かと思ったものだが、調べてみると、他のきのこに寄生された成れの果てであることが分かった。これの元が何なのかは定かではないが、トドマツ樹下で見かけているのでテングタケ科のものが怪しい。ヒダがないのも、胞子をばらまかせないためだろうか。
これだけ猛っているのに、自分の意志では何もできない、菌類の静かな闘争がそこに垣間見えた。

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8月下旬平地にて。テングタケ。この時期ぐらいから一斉にあちこちで彼らが顔を出し始めた。
テングタケ科のテングタケである。最も身近な毒きのこといってもいい。傘も大きなものは20センチを超えるので、公園などに大量に生えると真っ先に子供に蹴飛ばされるかわいそうな存在。

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ハナビラタケ。カラマツの立ち枯れや弱りかけに発生する。見てみたいと思ってはいたが、街中の緑地で見つけた。これはもう結構古くなっていて、晴れが続き乾燥している。
割と有名な食菌であり、後日別なところで採集したものがこれ。

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マイタケを白くしたようにも見えるが、においはよくあるきのこ臭に、ほんのりマツの香りを足したような感じ。
特別濃厚な味があるわけではないが歯切れもよく、癖もないので炒めものなどにも良いらしい。自分は味噌汁にして食べたが、他のだし系きのこと合わせると食感も補えて良い。

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ハナイグチ。北海道での呼び名は落葉きのこ、ラクヨウ。北海道で最も人気のあるきのこで、シーズンともなるとあらゆるカラマツの樹下をうろつく人間が目につくほど。カラマツにしか出ず、同定が容易なのも長年にわたる人気の秘密だろうと思われる。
秋のきのこではあるが、8月の終わりに一度発生するタイミングがあることが多い。
湿時は著しいぬめりを帯びていて、ナメコのようだが、イグチ科の特徴通り裏はヒダではなくスポンジ状の管孔になっている。
味は、めちゃくちゃにだしが出るのと、ぬめり系きのこ特有の口当たりのいい優しくも弾力ある食感もあり、味噌汁が非常においしい。
また、炒めた南蛮と一緒にめんつゆに浸けたものもおいしい。これは手軽に作れてそこそこ日持ちするので今年は結構作った。

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アメリカウラベニイロガワリ。トドマツ樹下にて。イグチ科のきのこで、著しい青変性を持つ。写真のように軽くひっかくように傷をつけるとすぐに濃青色に変化する。食菌。

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キヌガサタケだと思われる(スッポンタケにも見える)。アカエゾマツ樹下にて。時間がなくあまり詳しく現地で観察はしていないが、これからスカートが広がるものではないかと思う。
上の溶けたチョコレートのような部分はグレバと呼ばれるもので、ここからコンソメを発酵させたようなとんでもない臭いを発する。それによってハエをおびき寄せて胞子をくっつけて媒介させるという、花に似たことをするきのこ。
風下にいると結構離れたところでも臭う。

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ギンリョウソウ。別名ユウレイタケと呼ばれるが、きのこではなく植物。葉緑素を持たないためこのような色ということ。
このような植物があることも、去年までは全く知らなかった。

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コガネヤマドリ。トドマツ樹下でよく見かけ、見た目も派手でそこそこ大きいため目立つ。食菌とのことではあるがまだ食べたことはない。

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テングタケ一家。

9月

9月から北海道はきのこが最も発生する時期となる。山だけでなく、街中の公園などを見ても実にさまざまなきのこが生えていることがわかる。
きのこは気温などの条件が揃えば、山に行かなくても出るものも多い。空き時間などをうまく使ってきのこ観察をしている人なんかは、身近でも珍しいきのこをよく見つける。

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9月初旬。ススケヤマドリタケ。エゾマツ樹下。ヤマドリタケとは、ポルチーニのことである。イグチ科の中でもヤマドリタケ属のきのこは大型になりやすく、柄も太く非常にマッチョなきのこだ。
味も香りも良く食感も良いという、食菌としてのポテンシャルも全きのこの中でもトップクラス。特にソテーやクリームソースなどで本領を発揮する。
ススケヤマドリタケもそんなグループの仲間で、味は最高クラス。しかも乾燥させるとバターのような芳香を発し、1本で極上の満足を提供してくれるきのこと言ってもいい。


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みんなのアイドル、ベニテングタケ。秋も深まってきた頃のきのこだが、山地ではこのぐらいの時期に見かけることができる。
イボが脱落した個体はタマゴタケに似ているので注意が必要だが、ひだや柄が白いのがベニテングタケの特徴。タマゴタケはヒダが黄色で、柄はだんだら模様になっているので、一度両者を見たことがあれば判別は難しくない。

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ハナイグチが本気を出し始める。今年は目につくところ目につくところに彼らが姿を表していて、最初は脳内からいけない物質が出るのを感じながら取っていたのだが、次第にめんどくさくなってきて、どうか今これから歩くところには生えていないでくれと願ってしまっていた。
ハナイグチは雨と気温がトリガーとなって、最初の軍、次の軍と押し寄せてくる。去年あれだけ頑張って探したのは何だったのかと思うほど、実は身近なきのこだということがわかる。

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きのこを勉強するまでは、このきのこの存在は知っていても、見つけたこともなかった。しかし意識の向け方を変えるだけで、まるでファミリーのように顔を突き合わせることになるのだ。

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もう、俺たちはファミリーなんだ……。

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ナラタケ。北海道ではボリボリとも呼ばれる。ハナイグチに次いで人気のあるきのこ。もろいきのこだが水分を含むと丈夫になり、食感もよくなる。取る時に本当にボリボリというような硬さのあるきのこ。
味は上品なだしで、きのこ本体の食感もとても良い。


10月

秋のきのこからは、気温が下降することによって発生するため、春の野草とは逆に、標高の高いところや北方からシーズンがスタートする。山で全盛期を迎えたきのこは、やや経ってから平地でも見られる。

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ベニテングタケは主にシラカバの樹下に発生する。北海道ではシラカバは市街地にもあるほど身近な木であり、当然ベニテングタケも公園などで見られるきのこだ。これも市街地の公園で見つけたものだ。
きのこと聞いて、最も多く想像されるのがこのベニテングタケのフォルムだと思う。きのこにフォーカスしたグッズが展開されると、必ずひとつは作られるのが本種だ。

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市街地の公園に出たベニテングタケは、子供の格好のターゲットとなる。

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平地でもハナイグチが目立ち始める。

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キンチャヤマイグチ。シラカバ樹下。柄がとても太く、黒いドット模様が特徴的。食菌で、柄は特に食感がよくおいしい。

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おそらくツチスギタケ。ひっくり返していないのではっきりとは断言できない。

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10月下旬。ムラサキシメジ。きのこシーズンの終盤をかざる美しい色のきのこ。落ち葉に菌糸をめぐらせるきのこで、ゆすると簡単に取れてしまう。
古くから知られ、ピエブルーという名前でフレンチでも使われる(全く同じ菌かどうかは不明)食菌だが、独特のゴムのようなにおいがあり、好き嫌いの分かれるところだが、茹でこぼすとほとんどなくなる。

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10月末。きのこシーズンのオオトリと言えばこのきのこである。誰もが知っているエノキタケ。そう、あのエノキタケである。このきのこは冬のきのこで、晩秋から春までという、他のきのこのいないシーズンを狙って発生するきのこである。
恐らく市販と天然で最もその見た目の差が大きいきのこだ。種々の広葉樹に発生するが、北海道では特にヤナギの木に見られる。ヤナギは川沿いに大抵生えているので、冬の間中お目にかかれるきのこでもある。しかし北海道の場合、除雪の入れない川沿いは雪に埋もれることになるので、基本は雪が降るまでの勝負となる。
柄が軟骨質の黒いビロード状になっているという、あまり他のきのこにはない特徴なので、同定は比較的簡単。水につけると鉄のようなにおいがするのも特徴。
味は非常に優秀で、ぬめりが強く食感も良く、だしも良く出るという、日本人好みのものとなっている。個人的にはバランスが取れていて一番好きなきのこだ。ナメコが好きな人なら間違いなく気に入るだろう。

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発生したてのこの写真を見れば、これがエノキタケだということが理解いただけると思う。なお、1枚目下側の離れた4つはナメコ。

11月

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11月初旬。今シーズン最後の収穫。エノキタケとヌメリスギタケモドキ
ヌメリスギタケモドキは本来シーズン終わりだが、これだけきれいな状態で発生していた。ヤナギの木に出るので、エノキタケを探しているとしばしば見かける。木の高いところでよく見かけ、それなりに大きいので非常に目立つ。
湿時に強いヌメリがあり、食感、味はハナイグチを上品にした感じ。今年初めて食べたが非常においしかったので、来年は見かけたら採集しようと思う。

終わりに

去年の秋からきのこに興味を持ち、今シーズンはさらに多くのきのこを見て観察し、食べることもできた。
今年はハナイグチの当たり年のようで、去年全く発生しなかったような場所でも見飽きるぐらい発生していたほどだった。採集圧が高くてもこれだけ見かけるのだから、本来爆発的な力を持ったきのこなのだとわかる。
来年はあまり探していない沢筋に出やすい腐朽菌を中心に探してみたいと考えている。
また野草についても、来年は食べられるもの以外も多く探してみたいと思っている。

知るということはとても多くのものをもたらしてくれる。そこら辺の林を眺めても、知る前はただの緑の塊だったものが、ミズナラ、ハルニレ、ハリギリ、タラノキ、カラマツ、トドマツ、エゾマツ、ヨーロッパトウヒ、ストローブマツなど、実に多くの情報を含んでいることがわかってくるのだ。
我々が生きている世界というのは、認識次第で無限に情報を汲み取ることができる。1年前にそんなひしゃくを2つばかり手に入れた人間が、今年どんな世界を見て、何を汲んできたか、それを感じてもらえれば幸いである。

来年は写真ももう少し勉強して、うまい人の写真も見て、その彩りの幅を広げたいと思う

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