【創作SS】オリンポスでの日常①【ヘルメス】
ヘルメスは、神々の使者として多忙な日々を送っていた。オリンポスの頂上にある神殿には、ゼウスを中心に神々が集まり、日々さまざまな議論や争いが繰り広げられる。彼は、これらの場において頻繁に仲介役を務めたり、メッセージを他の神々や人間の住む世界へ届けたりする役割を担っていた。
ある日の朝、ヘルメスはオリンポスの神殿に姿を現した。金色の柱が輝き、神々の声が重なり合う中、彼はゆっくりと歩みを進める。
輝く白亜の階段を登ると、最も高い場所に鎮座するゼウスの大広間にたどり着いた。金色の玉座に近づくと、厳かな雰囲気が空間全体を包み込む。黄金に輝く玉座の上に座るゼウスは、まるで神そのものを具現化したような威厳を放っている。
ゼウス「ヘルメス、そろそろアポロンに私の意向を伝えてくれ。最近、彼は音楽ばかりに夢中になっていて、重要な仕事を怠っているようだ。」
ヘルメス「了解だよ、父さん。でも、兄さんなりに忙しいんじゃないかな。たまには目をつむってあげてもいいんじゃない?」
ゼウスは深いため息をつきながらも、ヘルメスの柔らかい口調に説得され、少しだけ表情を和らげた。
アポロンとの会話
ヘルメスはゼウスの言葉を胸に、光り輝くリュートの音が聞こえる神殿へ向かった。そこにはアポロンが、夕日を背にしながら詩を吟じていた。
ヘルメス「(異母)兄さん、演奏の時間を邪魔して悪いけど、父さんからのメッセージを持ってきたよ。」
アポロン「また仕事の話か?僕は芸術を司る神だ。これも重要な役目だろう?」
ヘルメス「もちろんさ。でも、父さんはちょっと心配しているみたいだよ。最近、他のことに気を取られすぎているんじゃないかって。」
アポロンは笑いながらリュートを置いた。
アポロン「なるほど、ゼウスも相変わらず細かいことを言う。でも、君が来てくれるなら悪くないな。どうだ、少し話でもしていかないか?」
ヘルメス「兄さんと話をするのは嫌いじゃないよ。それじゃあ、少しだけ時間を共有しようか。」
ヘラとの衝突
その夜、神殿の広間ではヘラが怒りを露わにしていた。彼女はゼウスの浮気に腹を立てており、その怒りは周囲の神々にまで向けられていた。
ヘラ「ゼウスはいつも自分勝手なのよ!誰かがあの男を諌めるべきだわ!」
ヘルメス「ヘラ、少し落ち着いて。キミが正しいと思うことはわかるけど、怒りに任せて話しても誰も耳を貸さないよ。」
ヘラ「ヘルメス、あなたはいつもそんな風に中立的な立場を取るけれど、それが状況を解決するとは限らないのよ!」
ヘルメスは苦笑しながらヘラに返した。
ヘルメス「僕の仕事は、みんなを繋ぐことだよ。怒りを煽ることじゃない。さあ、どうにかして穏便に解決する方法を考えよう。」
ヘルメスの独り言
一日の終わり、ヘルメスは自分の部屋で独りつぶやいた。
ヘルメス「オリンポスでの一日はいつも忙しないな…。みんな個性が強くて、均衡や調和なんて遠い夢のようだ。でも、それが僕たちの在り方なのかもしれない。」
彼は天窓を見上げ、輝く星々に思いを馳せた。
ヘルメス「でも、彼女といる時間は本当に静かで穏やかだ。あの家での生活が、こんな僕にとっての癒しになっているなんて…少し不思議だよ。」
彼は微笑みながら、そっと目を閉じた。翌日もまた、オリンポスの神々の喧騒に戻るために。