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田舎の猫 街に行く 第十九話

田舎の猫 呪術師と話す

ラフィ

 「な、ななななななっ!?何言ってんのっ?」
 動揺して声が裏返る。娘は恥ずかしそうに俯いている。ヤバい、この娘可愛い……

 「仕方ないじゃないっ!貴女に呪いの残滓が纏わり付いていたた、たたのよっ!呪いの源を消さないと危なかったのよっ」

 思いっきり噛んだ……。

 「それに同性じゃないっ!そんなの見慣れてるわっ!」

 頭の中に娘の躰の映像がフラッシュバックする。『私よりも』やや慎ましやかだけれど奇麗だった胸。産毛一つないその肢体。羨ましくて溜め息が出るほどだった。ほら、私は猫人だからさ……体毛はね……

 ま、まだ見せるような相手もいないからいいのよっ!でも、やっぱ年頃の女の子としては気になるわよね。そのうち脱毛しようかしら……

 また自分の世界に籠もる悪い癖が出てしまった……。ふと我に返ると、いつの間にか娘が視線をあげ私を見ている。私は焦りながら続けた。

 「そ、それにそれにっ、貴女シャーマンでしょっ? シャーマンなんて人前で裸になって儀式するんじゃんっ!」

 これは本当。内容にもよるがシャーマンは自然と同化するためにその身一つで儀式を行う。神楽を舞うときにも衣装は着けない。大自然のパワーを肌で感じ、取り込むのだ。その為、特殊な薬液を躰に塗って体毛も除去してるのだそう。彼女が私の『鑑定』に気づいたのも、肌で私のスキルの力を感知したからだ。

 ここまで息継ぎなしでまくし立てた私は、深呼吸をした。落ち着け……。落ち着け私……。そう心の中で呟きながら。
 
 すると、今まで恥ずかしそうな表情を見せていた娘の様子が一変した。

 「ぷっ……アンタ意外と初心なのね」
 そう言うと娘はいたずらに成功した子どものような笑顔を浮かべた。

 からかわれたっ! そう気づいた私はカッとなった。怒りのオーラが体全体を包む。ギッと娘を睨む。

 「おーこわ。初心な上にキレやすい……。なかなか分かり易い性格で何よりね……」
 「あ? やんのか? 喧嘩ならいくらでも買うわよっ! 誰に喧嘩を売ったか教えてあげるわっ!」
 「そんなつもりはないんだけどな……。で、アンタどこまで知ってるの?」
 娘に問いかけられ私は我に返った。切り替えが速いのは私の誇れる数少ない長所である。

 「貴女がある女性に呪いをかけたこと。そして、私がその呪いを解いた。でも、貴女には呪いの残骸がこびり付いてたからそのままにしておくと命の危険があった」

 だから私が貴女の命を救ってあげたのよと言外に仄めかせながら私は言った。

 「その女に息子がいたことは?」
 知ってるのか? と彼女は視線で聞いてくる。
 私はゆっくりと肯く。

 「そいつは人攫いなのよっ! あいつはラビィ……私の友だちを攫って奴隷商人に売り飛ばしたっ! 許せない、絶対に許せない!」

 娘は興奮気味にまくし立てた。私は尋ねる。
 「そうね、貴女の言う通りあの男は人攫いよ。でも、なんで母親に呪いをかけたの? 男に直接呪いをかければ良かったんじゃない?」
 「出来なかったのよ、私には……。私の力じゃ男に呪いをかけるのは無理だった。私はね、呪術師としては中途半端なの。」
 娘は悔しそうに俯く。
 「私は『まじなう』ことは得意だけど『のろう』ことは苦手なの。だから依り代も自分の躰を使わなくてはならない。そして呪いを自分に降ろしても入れ替えられるのは同性の一部分だけ……」

 なる程。納得がいった。呪術師にもいろんなタイプがある。彼女のように『まじない』は得意だけど『のろい』は苦手なタイプ。全く逆のタイプ。そしてどちらも同じように熟せるタイプ。そして、これはその人の本質によるのだ。

 彼女を『鑑定』した時に分かったのだが、その本質は善よりだった。人の本質は大まかに分けると3つに分かれる。善・中立・悪だ。

 前の世界にあったゲームの話で説明するのが分かり易いかな。善(Good)は言ってみればお人好しタイプだ。そして悪(Evil)は別に悪党というわけではない。自己中心的なタイプとでも言えば良いだろうか。

 中立(Neutral)は当然その真ん中なんだけど、人はそんな簡単に割り切れるものではない。中立から善より、逆に悪よりというのがほとんどだ。しかも時と場合にもよる。

 ある時にはお人好しな行動をした人でも、ある時には自己中心的な行動をするなんて事はざらにあるし、子どもの頃は自己中心的だったのが大人になったらお人好しな性格に変わったりするなんてのもあるからね。

 で、呪術師は本質が善よりの場合『まじない』は得意だけど『のろい』は不得意になりがちな傾向がある。まぁ、何事にも例外はあるんだけどね。

 だから、彼女が『のろい』が不得意なのはある意味当然なんだけど……

 「なぜ関係のない母親を?」
 彼女の本質がお人好しなのであれば、それは忌み嫌うべき行為のはず。なのに何故行ったのかという疑問が残る。

 「あの男に愛するものが奪われる悲しみ、苦しみを味あわせてやりたかった。でも、母親を殺すつもりはなかったんだ。少しの間苦しめて、ラビィを解放させるよう交渉するつもりだった……」

 まぁ、大方は予想通りの答えだったわね。つまり、男の母親に呪いをかける。男が苦しむ。母親の呪いを解いて欲しければ、ラビィを奴隷商人から買い戻せと男を脅す。こういう事だろう。余程大切な友だちなのね。

 話は分かった。私は神ではないから全ての者を救うことはできないが、せめて手の届くところは何とかしてやりたいと思う。だから、彼女の友だちあるラビィを救ってやりたいと思うし、私なら救えるはずだ。そう考えて私は彼女に言った。
 「分かったわ。で、貴女の名前は?」

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