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田舎の猫 街に行く 第二十五話

田舎の猫 町を出る

ラフィ

 男の家に着くといきなりラフィが土下座した。驚いて固まる男とその母親。私もラビィも驚きの余り声も出ない。
 「わ、私勘違いしてて……」
 
 そこからラフィが何故、どのようにして男の母親に『呪い』をかけたかという話が延々と続いた。
 
 男と男の母親はラフィの話を黙って聞いていた。そしてラフィの話が終わると母親の方がこう告げた。
 「ありがとね、お嬢さん。貴女のお陰で最近息子が私にとても優しくしてくれてたのよ。とっても嬉しかったわ……」
 男も続く。
 「お、俺もよ……母ちゃんが病院になって初めて気づいたんだ。俺は大切な物を蔑ろにして失う寸前だったんだなってさ……」
 
 人格者だった。2人とも……めっちゃ人格者だった。この言葉をあの『ダ女神』にも聞かせてやりたい。そうだよ、大切な物は失ってから気づくのがほとんどなんだ。それを失う前に気づけた男はラッキーだったのかも知れないね。
 
 その言葉を聞いた途端ラフィの瞳から涙が溢れる。まぁね、彼女は頭に血が上りやすい分感情が豊かだからね。

ラビィ

 「なんて素晴らしい方なのでしょうか。私感動してしまいましたわ~っ!私、貴方と出会えて嬉しいです。仕事も紹介していただきましたし、感謝感激、ヒデキか~んげきぃ!ですわ~っ!」
 
 そのネタは多分マーシャさんも知らないと思うぞ。私? 私は前の世界ではヨーツーブで昔の映像を観るのが趣味だったのよ。リアルタイムで知るわけないじゃん。何だかカレーが食べたくなってきたな……
 
 「本当にごめんなさいっ!」
 最後はラフィのこの言葉で謝罪会見の幕が降りた。
 
 その後男の荷物や家具等を根こそぎインドアに突っ込むと、引っ越しの準備は数分で終わった。そして別れの時は来た。
 
 「アンタには随分と世話になったわ」
 うんうん、貴女の命を救ったのは私です。
 「だから感謝の印に友だちになってあげてもいいわ」 
 ……What?
 「シーオーシャンにも着いていってあげるわ。感謝なさい」
 ……why?
 「旅立つ時は必ず教えなさいよ」
 ……んーと……何でっ!?
 
 「こうやって私も連れて来られたのですわ……」耳元でラビィが囁いた。なるほどね、全ての元凶が今分かったような気がする……
 
 私は脱力感を覚えながらも、まぁ『袖すり合うも多生の縁』かと思い直し、彼女たちとリンクを繋げた。そしてその後は念の為リンクを切っておく。一度繋げれば履歴から再リンクは可能だから、こっちから連絡を取りたい時は問題ない。でも繋げっぱにしとくと、下手にファティマ村での話が漏れたりするのはヤバいからね。ほら、奴隷の仕事とかさ。
 
 その後ラフィ&ラビィと別れた私たちは待ち合わせ場所である町の入り口に向かった。そこで私はまた驚愕の場面に直面した……
 
 「え……何だかめちゃくちゃ人がいるんだけど?」
 「ひのふのみ……」およそ20名くらいだろうか。しかも老若男女が入り交じっている。何があったっ?
 
 慌てて近づいて行くと、私に肩の骨をポッキリ折られた親玉が話しかけてきた。こいつも生意気なことに帰宅組だったのよ。『どら猫』って言ったことは一生忘れてやらないからなっ!
 
 『猫の額よりも狭い心よね~』
 またも『ダ女神』が呟く。
 『ダ女神違うもんっ!キャティちゃんはやれば出来る子なんだもんっ!』
 幼児退行してる……。ちょっと可愛いかもしんない。
 
 「……って事なんだわ。おい、聞いてっか?」 
 もちろん聞いてなどいない。つまらんっ、お前の話はつまらんっ!水星だろうが金星だろうがつまらんっ!
 
 つまりはこういう事らしい。男たちは全員人攫いから足を洗うことになった。次の職を探そうにも、一度でも犯罪に手を染めた人間を雇う者はいない。良くも悪くも彼等は名の知れた悪党だったのだ。
 
 そんな訳で彼等の出した結論は「家族全員でファティマ村に移住してはどうか?」という事らしい。
 
 妻帯者は夜の仕事は無理だけど、畑仕事でも何でもやるとの事だった。まぁ男だから簡単に力仕事をって訳にはいかないんだよね。何故なら猫人の女性は並の男よりパワーがあるし、エルフの魔法があれば重い物を運ぶのだって簡単だ。ハーフだってそこらの冒険者並のスペックはあるだろう。彼等の仕事があるかどうかは分からないが、マーシャさんに一応問い合わせる事にした。
 
 『仕事自体は簡単な物になりますが、人手が欲しいには欲しいですね。まぁ、サービス業になりますけど』
 なるほど……妻帯者でもホストやバーテンダーくらいは出来るだろう?って事ね。
 
 マーシャさんの意向を伝えると男達は承諾した。まぁ後は家族間でよく話し合うことだね。私はやることはやったよ。
 
 こうして私は総勢約20名をインドアに招き入れ、ファティマ村へ跳んだ。

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