田舎の猫 街に行く 第三十四話
田舎の猫 語り始める
スパッ……スパパッ……スパスパッ
「……ねぇ……アレって大丈夫なん?」
スパッ……スパスパッ……スパパパッ
「大丈夫とはどういう意味ですの?」
「あー、エネルギー切れで止まっちゃったりとか?」
私は上空の空飛ぶ円盤を見ながら言った。
「それはないですわ。アレは周りの魔素を取り入れながら動いてるので、止まることはありませんわ」
夕食のニンジンソテーをフォークに刺しながらラビィは言った。
あれから何度も何度も……鬱陶しい程の襲撃を受けた私たち一行は、遅い夕食をとっていた。
地上から赤黒い人型(グロいのでグロと命名)、空からは黒キュピ(黒いキューピッドだからね)が交互に現れた。その為地上のグロは私とマーシャさんとミーシャで殲滅し、上空の黒キュピはリーシャとラビィで担当するという役割分担が自然とできていた。
で、今は黒キュピが上空を飛び交う中、ラビィの操るフリスビーがヤツらを迎撃している最中だった。リーシャも食卓についているが全く問題ないくらい圧倒的な殲滅力である。
「でもさ……アレって翔ばすのに結構な魔力使ってるわよね?」
「いえ、翔ぶこと自体は『浮遊』の魔法使ってますから追加の魔力は必要ないんですわ。回転の方も魔力が必要なのは最初だけですわね」
なんてエコな武器……ってことは半永久的に攻撃できちゃうわけ?
「流石に刃は消耗品ですから交換する必要がありますわね。それでも一応魔力でコーティングはしてあるので、使い方にもよりますけど1ヶ月くらいは保ちますわ」
なるほど……カミソリの刃みたいなものね。キレてない……んじゃなくて、よくキレてますね。
「もう一つ質問してもいい? 今食事してるけど、貴女がアレを操ってるのよね?」
そう、ラビィはさっきから夕食のステーキを食べ、付け合わせのニンジンソテーを食べ、今はポテトサラダに取りかかっている最中だった。フリスビーなど一顧だにせず。
「現在はオートパイロット中ですわ」
ラビィが興味なさそうに言う。
そんな便利な機能までついとるんかいっ。ならもうずっとオートで翔ばしとけばいいんじゃないの? 寝てる時も。
「たまには見ないと、敵を追っかけて行って戻って来なくなっちゃいますから……」
あー、ラジコンの飛行機が電波の届く範囲外に飛んでっちゃうアレね。ま、放置しちゃダメだよな。特にあんな危険なモノは。
「私もアンタに聞きたいことがあるんだけど」
私たちの会話に突然ラフィが割り込んだ。パッションに突き動かされずっと踊り続けていた彼女も、今は食卓についていた。バッテリーがビンビンでもガス欠では動けない。それは人も同じだ。精神論だけでは生きてけないのだ。
「アンタってさ、結構な魔法の使い手よね? 最初は攻撃魔法も使ってたし。なのに何故毎回フィジカルコンタクトしてるわけ? 魔力ケチってんの?」
あー、ごもっともな疑問だわね。私の場合魔法ではなくスキルだ。つまり魔力は使わない。その為攻撃魔法も撃ち放題なのだ。どっかの紅い魔族みたいに爆裂魔法一発で魔力切れになる事もないチート仕様である。
「やろうと思えば攻撃魔法もいけるんだけど、あんまり使いたくはないかな。もちろん時と場合によるけどね」
「どういうことよ?」
「んーと、あんまり詳しくは説明できないんだけど……」
そこから私は語り始めた。私の元いた世界の事。その世界にはボタン1つ押すだけで、街はおろか国も滅ぼすことのできる武器があったこと。その武器によって最後は世界ごと滅びてしまったこと。
「アンタ転生者なんだ……」
ラフィが呟く。するとみんなの視線が私に向いた。実はこの世界では転生者の存在は結構知られている。それ程珍しい存在という訳でもない。
「まぁ、インドアだっけ? あんだけトンデモないスキル持ってるのも納得できたわ」
スキルは転生特典だけどクジで当たったんです……とは流石に言えなかった。みんなこんなトンデモスキルを持ってる訳じゃないんだよ。
まぁ、科学知識とかテクノロジーとかをこの世界に伝えた人たちは、偉大な魔法使いとか錬金術師として扱われたんだろうな。ほら、『高度な科学は魔法と区別がつかない』とか何とかって著名なSF作家も言ってたしね。
「で、それとアンタが攻撃魔法を使わないのとはどう繋がるわけ?」
「ボタン1つで何千、何万の人を殺せるってことはね、現実感が湧きにくいのよ……」
そう、相手を殴ればその痛みは自分の拳にも伝わる。蹴れば足に衝撃が伝わる。そこには確かな現実がある。しかしボタンを押すだけでたくさんの命を奪ってしまうという事実は、どこか現実味に欠けるのだ。だから前の世界も滅びたのだと思う。そしてそれは魔法に頼るのも同じような気がするんだよね。
私に似合わないシリアスな話をしてしまったけど、みんなには私の思いが伝わったように思う。ラフィを始め、ミーシャもリーシャも肯いてくれた。ラビィなんかは感動して耳がピンと直立している。みんなの心が一つになったような気がした。
すると話し終わった私に擦り寄ったマーシャさんが、私の目をじっと見つめて言った。
「お気持ちはよく分かりますわ。だって……殴るのって楽しいですよね?」
……この一言で全てが台無しになった。