田舎の猫 街に行く 第四十三話
田舎の猫 化身を使う
『レインボーブースト』と唱えた瞬間私の体から、正確には服から七色の虹のカケラが弾け飛んだ。そしてそれぞれ人の姿を形作った。
「ふっ、数に頼るのが嫌いだとか言っておきながら結局は貴様も数に頼っておるではないか?」
嘲笑するようにアブラムが言う。そう……だから使いたくなかったのよね。私が最も嫌う数に頼る闘い方だから。でも今更だ。マーシャさんたちを含めた闘いは、最初から5対1の戦隊モノなんだから。
「これは武器なのよっ!」
そう言って私は気持ちを切り替える。切り替えの早さは私の数少ない長所の一つだ。強ち嘘と言う訳でもないし。
「まあいい、多かろうが少なかろうがやることは同じだしな。ゴッド・ブーメランッ!」
そう言ってアブラムが放ったブーメラン型の武器は、私ではなくマーシャさん達をなぎ倒した。
「マーシャさんっ!」
そう叫んで駆けよろうとする私に、進行方向を変えたブーメランが迫った。しかしレインボーブーストで生まれた大地の化身がそれを叩き落とす。
「なるほどな。そういう使い方か。なら、これはどうかな? ゴッド・バードッ!」
アブラムの周囲に幾千羽もの鳥が現れた。折り紙でおった鶴が渦を巻き周囲を飛び回る。
「きゃあっ!」
アブラムの背後から悲鳴が聞こえた。
「こそこそと隠れているのは分かっていたのだよ」
鶴の渦の中心でもがいているのは……
「ラビィっ!」
渦に巻き込まれたラビィが崩れ落ちた。
「これで邪魔は入らん。心ゆくまでやり合おうぞ……」
そうニヤリと笑うアブラム。そして私に向かって指を指すと、さっきまでラビィを取り囲んでいた鶴の渦が今度は私に向かって飛んで来た。
「一度見た手品のネタなんて通用するわけないでしょっ!」
火の化身が放った炎が渦巻く鳥達を焼き鳥に変えた。
「ふんっ、楽しませてくれる……」
アブラムはそう言うと再び弓を構えた。再びゴッド・ボーガンを使うつもりだろう。
私はすうっと息を吸った。すると七色の化身たちが消滅する。
「なんだ、もうショータイムは終わりか? 意外と短かったな」
馬鹿にするようにアブラムが言った。
確かに『レインボーブースト』にはその性能の高さ故に使える時間が限られている。今の私の力では3分が限界だ。カップ麺が食べられないヒーローと同じで。
認めよう。アブラムは強い。多分今までの私の闘い方じゃ勝てない。
でも……でも、だからこそ負けられない。負けたくない。だってラフィに誓ったもの。私の全身全霊、全力全開を見せるって。
「やってやるわっ!」
私はそう叫ぶとヤツの懐に飛び込んだ。