田舎の猫 街に行く 第十一話
田舎の猫 エルフと遭遇する
ふり返ると、まぁなんていうか……お肌がぷるんぷるんで、ほっぺたをむにゅむにゅしたら幸せだろうなって顔をした美少女がいた。しかもこの娘、猫人だ。
「あのっ、助けて頂いてありがとうございました。お名前を伺っても……?」
「名乗るほどのものではないわ」
ありがとう。人生で言いたかった台詞の2つ目が言えたわ。
「そうですか。じゃあ、一緒に夕食を食べません?」
この娘……出来る。私の渾身のネタをつらっとスルーして夕食に誘ってくるとは……。確かにお腹は空いてるのよ。朝から何も食べてなかったから。
「魅力的なお誘いではあるけど、この盗賊(仮)達はどうするの?」
私は背後をちらっと見ながらそう言った。ボロボロの彼等は最早立ち上がる気力もないようだった。
「この人達は盗賊じゃないです。人攫いなんです。私たちを捕まえて奴隷として売り飛ばすって言ってました」
「だったら尚のこと生かしておいたらマズいんじゃない? また狙われるわよ」
私は言外に『何故さっき止めたの?』って気持ちを込めて言った。
「でも、この人達にも家族がいると思うから……」
優しい。人としては尊敬に値する。でも、前の世界基準で言えば単なる『平和ボケ』だ。ここで許したとしても彼等が改心する可能性は低い。
「でもさ……」
そう言いかけた時、また一つ近づく影があった。
「リーシャ、どうしたの?」
その顔を見て私は驚いた。
「えっ……? 猫人とエルフのハーフ……?」
その娘には猫人の特徴である猫耳と、エルフの特徴である長耳の両方があった。通常猫人は人間の耳と猫の耳を有する。元人間からすると耳が4つもあるのは不気味に思っても不思議はないのだが、自分もそうなのだから慣れてしまった。
エルフと猫人とのハーフ……。なに、そのうらやま配合は。もう愛されキャラ確定じゃん。そりゃ人攫いに狙われもするわ。
「あっ、姉さん……。今、この方を夕食にお誘いしてたところよ。」
リーシャと呼ばれた娘がそう言った。
「あぁ、突然ですみません。先ほどは助けて頂いてありがとうございました。私はミーシャと言います。そして、この娘は妹のリーシャです」とミーシャ。
「ご、ごめんなさい、名乗らずに……。人に名前を聞くときは自分からですよね。私、リーシャです。」
そこに横から突然割り込む小さな影。
「私、サーシャでっす。お姉さん猫人?」
あぶない。小さすぎて視界に入ってなかった。触ったら逮捕、獄中で点呼だ。
更に近づく影が一つ。
「娘たちが失礼しました。マーシャと申します。先ほどは危ない所を助けて頂きまして、ありがとうございました」
待って、今娘たちと言った?そりゃさ、エルフは長命種で有名だよ。私の元いた世界にもさ、千年以上生きてるエルフの魔法使いもいたよ。十年なんて一瞬の瞬きの間って言い切ってたよ。
でもさ、そのエルフだって子どもはいなかった。3人ってさ……エルフって長命な代わりに子ども出来にくいんじゃなかったっけ? そもそも猫人との間に子どもなんて作れんの? いや、実際にここに娘が3人も居るわけだけれども……
更に言うと、見た目が娘と同じくらい若いってどういうこと? エルフって恐すぎ……
私が困惑してるのを見てとったのだろう。リーシャが話し始めた。
「お母さんはエルフの中でも珍しい『ハイパーエルフ』なんです。ハイパーエルフは他種族となら子どもが作りやすくて、種族維持に欠かせない存在として敬われてるんですよ。その分同じエルフとの子どもは出来にくいみたいなんですけど……。私はお父さんの血を色濃く受け継いでるので猫耳と人耳の方になりましたけど、姉さんと妹はエルフの血が濃くて……」
……『ハイパーエルフ』って何? ハイエルフなら知ってるんだけど。バ○ストンウェル出身なのっ?
私は額を押さえながら「ずつうは頭が痛いって事なんですよ(小○構文)」と呟いた。取り敢えず、今更かっこ悪いけど私も名乗った方が良いよね……と考えながら……