田舎の猫 街に行く 第三十五話
田舎の猫 城を見つける
「ねぇラフィ~ どっち~?」
私の投げやりな問いかけに、これまた投げやりな態度で指さすラフィ。
「あっち……」
いや、舞いながら指さされても分からんて……
私たちがダンジョンに入ってもう既に3日が過ぎていた。その間うんざりするほどグロや黒キュピの襲撃を退け、ダンジョン内で野営しながら私たちはひたすら先を急いだ……つもりだった。
何もない、視界も悪いダンジョン内を進むうちに私たちの方向感覚は麻痺した。平たく言えば迷ってしまったのだ。別に私の『迷子』スキルのせいじゃない。こんな目印も何もない所で迷うなって言う方が無理なのだ。そうに違いない……よね?
一度村に戻って出直すという手も考えたんだけど、その間にまたダンジョンが変性する心配があった。もし再突入出来なくなったら大変だからね。その案は見送られたのよ。
人は暗闇の中で闇雲に歩くと、円を描くように元の所に戻ってくるって説がある。人の足の長さが左右で違う所為だとかなんとかで。となると視覚や感覚に頼るのは危険ということだ。じゃ、どうすれば? ってなった時ラフィが言ったのよ。
「瘴気の濃い方に進めば良いんじゃない?」
「えっと……貴女、そんなの感じられるの?」
「え、出来ないの?」
「腐ってもシャーマンなのね。見直したわ」
「アンタ、絶対喧嘩売ってるでしょ? いいわ、その、喧嘩買ったげる!」
こんなやり取りの後、私たちは再びダンジョン内を彷徨う事になった。
ラフィが舞うことで周囲の瘴気はどんどん祓われていくから、濃い方が未だ探索してない場所という事になる。理屈としてはそうなんだけど、瘴気は空気のように流れるから時間が経つと元の濃さに戻ってしまうのよ。時間との勝負って事ね。
そんな訳で私たちは休む間もなく歩き続けていたわけ。そうして……ダンジョンに入ってから4日目に漸く新しい展開が訪れた。突然前方に異様な風景が現れたのよ。
「あれは……お城?」
リーシャの呟きにみんな顔を見合わせた。お互い『ちゃんと見えてるわよね?』って感じで。なんというか、酷く場違いというか変というか……不思議な感じがしたからだ。
すると突然知らない声が私たちに向けて発せられた。
「ようこそ皆様、お待ちしておりました」
その声がした方に目を向けると、いつの間にか妙齢の女性が立っている。
私たちは本能的に悟った。アレが……アイツがラスボスだって。
「お待たせしちゃってゴメンナサイね~!」
私が中指立てながら言うと
「待たせすぎて歳とっちゃった? オ・バ・サ・ン!」
すかさずラフィが続く。
相変わらずの治安の悪さだ……
マーシャさんは両手にスタッフを構え「スタッフ~、スタッフ~!」とイマジナリーなスタッフに呼びかけている。多分精霊の事だよね? そのスタッフって。そしてその両横でそれぞれ武器を構えるミーシャとリーシャ。
ラビィは……ラビィは何処っ? って思ったら女の後ろにしっかり回りこんでフリスビーを構えていた。やるな隠密兎……。そして全員ヤル気満々だ。
敵意に満ちた私たちの姿に怯んだのか、女は後退りながら言った。
「思ったより元気そうで意が……いえ、何よりですわ。まあ、おもてなしはこんな事しか出来ませんけどねっ!」
そう言った途端女の姿が消え、辺り一面魔物の群れ……群れ……むれ、ムレ……魔物のjamboree~。思わず歌っちゃう程たくさん、イッパイ魔物が湧いた。
「あれ? この魔物って……」
「ええ、瘴気に充てられて多少変容してますが、ダンジョンに元々棲息していた魔物です」
ミーシャが解説してくれた。
そう、グロや黒キュピじゃなく、ダンジョン名物ゴブリン君とかオーク君とかその他メジャー処が勢揃いしていた。
「これは燃えるわね~っ」 思わず私は叫んだ。ガッツポーズ付きで。
何故か? それは『人は何故ダンジョンに潜るのか?』という根本的な命題の答えに起因する。『そこにダンジョンがあるから』ではない。すなわちそれはドロップアイテムを獲(え)るためである。
今までのグロや黒キュピ達はあれだけ狩ったのに、一つとしてアイテムをドロップしなかったのだ。私たちのモチベが上がらなかったのはその所為でもある。そしてそのイライラをぶつける相手が目の前に現れたのだ。これで気合いが入らなければダンジョンの探索者失格である。
「普通はこれだけの魔物の群れに遭遇したら死を覚悟するんですけどね……普通じゃないですよね」
リーシャが呆れたように言う。まあ、私が普通でないのは確かだけどね。類友って言葉知ってる? と思ったとき……
「ラビィ、行っきま~すですわっ!」
上空のハーピーの群れに向かってラビィがフリスビーをぶん投げた。
そして……宴が始まった。