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月の女神と夢見る迷宮 第四十話
生命エネルギーって何?
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「それはマスターだからです」
「ブランシェ、いたのっ!? え、えっと……そうだ、外はどうなったの?」
動揺の余り、トンチンカンな応答をしてしまう私。
「とっくの昔に片づきました。ついでにマリス嬢の残した使命も果たしました。封印したい禁忌の知識とはこの中にあるモノ……ですよね?」
そう言いながらブランシェはフィーナに何かを手渡した。
それは金属製の箱というか板状の物。大きさは両手で持つことが出来るくらい。重さは金属製の割には軽そうだ。
「そう、これよっ! マリスの『ぱそこん』。これを封印してしまえば……」
「壊すのですか?」
「ううん、壊してもマリスから解放された魔物の中には復元出来るヤツらがいるの。そういう知識とスキルを持ったヤツらが……」
「じゃあ、どうするの?」
地上に降りた私が尋ねると、マリスは勢い込んで答えた。
「この中に『しーぴーゆー』とマリスが呼んでいた石があるの。アタイも一度しか見た事ないんだけど……」
「それが……?」
「それがこの『ぱそこん』の心臓なんだって。そして、それだけは復元できないのよ。マリスの知識や技術でも無理だから」
マリスさんの禁忌の知識を盗んだ魔物達も、マリスさん自体が知らない知識や技術までは手に入れられない。そういう事だ。
「だから、その『しーぴーゆー』を……」
何故全てを丸ごと破壊してはいけないのか。その事についてフィーナは語った。でも、私には難しすぎて理解できなかった。この中で理解していたのは、うなづきながら聞いていたブランシェだけだったんじゃないかと思う。
「とにかくそれを封印するのね。でも、封印って何をすれば……」
「その方法を知っていたのは白人狼族の長と……もう1人。マリスが1番初めにテイムした魔物だけ」
「その魔物はどこに?」
「どこかで生きてるはずよ。1番最初に解放されたから」
「心当たりはあるの?」
「それは……。でも、会えばきっと分かる。マリスの匂いが残ってるはずだから」
そう言いながら不安げな表情をするフィーナ。
「結局それを持って行くしかないわけね。」
お嬢様がそう締めくくった。
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「さて……」
お嬢様が私とブランシェを交互に見ながら話し始めた。
「シーナが飛べるようになった理由を聞かせて貰える?」
お嬢様がその言葉を発した途端、みんなの視線が私とブランシェに集まった。フィーナの難しい話よりも、こちらの話の方が俄然興味がある。そんなあからさな態度に、私は怯んでしまう。
「それが……私にもよく分からなくて……」
私が正直に答えると
「ブランシェは何かを知ってそうね?」
とお嬢様がブランシェに視線を移した。
するとブランシェは
「それはマスターだからです」
とさっきと寸分違わず同じ事を言った。
「そのマスターとは何かということから話して貰えないかな?」
とミズキさんが更に質問する。
「マスターとはガーディアンとリンケージしている存在で……」
延々とマスターとは何か。リンケージとは何かについて語り始めるブランシェ。
どう考えても私たちでは理解できる内容ではなかった。フィーナの話と同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上だった。
だけど1つだけ分かった事がある。私の翼は生命エネルギーが姿を変えたものであり、体内から放出されたそれで形作られている。生命エネルギーの放出する力によって浮かび、推進している。また、その他にも生命エネルギーは形を変える事が出来、例えば攻撃を防ぐ障壁なんかにもなるらしい。
「そういえば、長に体当たりされた時も全然ダメージがなかったわ」
「生命エネルギーがバリアとして働いたのです」
「生命エネルギーって魔力と似てるのかしら? 何でもありね」
「不思議だが便利な力だな」
「いずれにしてもシーナにしか使いこなせない力のようだね」
「シーナさん凄いです!」
みんなが口々に私について語り始める。何だか恥ずかしくて体がムズムズするわ。
「じゃ、やっぱり人間なのね?」
フィーナが確認するように言うと、ブランシェは間髪を入れずに答えた。
「それは間違いありません……」
「なーんだ、残念っ」
ちょっとフィーナ……それどういう意味よ。
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「ミントはママと一緒に空のお散歩が出来るの嬉しいよ?」
ミントがそう言うと
「空を飛ぶ事は恐らく生命エネルギーの消費が激しいと思われます。その証拠にほら……」
ブランシェが指差すと、私の背中に生えた翼はゆっくりと空気中に滲むように消えていった。
飛んでる途中で翼が消えて落っこちる可能性もあるわけね。ミント、悪いけど空の散歩は遠慮させて貰うわ。
「これで全ての問題が解決したわけではないんだろうけど、一先ず撤収かな?」
「そうだな。外の連中を何時までも放っておくわけにもいくまい」
やっぱりこの建物外の黒人狼族の殆どが、老人や子どものような非戦闘員だったそうだ。彼等は今、ミントのライトニングで眠らされている。
「ミントね、力を抑えて殺さないようにしたの。凄いでしょ?」
魔力のコントロールが著しく上達したみたいね。やっぱり私の娘は天才だわ……
「その年齢で既に子持ちというのはどうなのでしょうか?」
「な、貴族なんて15歳で結婚するのよっ。いても不思議じゃないわよ」
「そうなのでしょうが、ミントのように大きな子どもは流石にいないと思われます」
「それは当然でしょ」
まぁ、ミントは私の本当の娘ではないし? 言ってみれば養子みたいなもんよ。
「マスターはミントの年齢がどのくらいだと思われてます?」
え、見た目通りなら12歳くらい? その前後だと思うけど。
「残念ながらその推測は外れています。妖精族は、人族より遥かに長い悠久の時を生きています」
「つまり……?」
「私も確認したわけではありませんし、ミントも覚えてないようですので正確な事は分かりかねますが……」
「うん」
「一般的に考えて、500歳は越えてると思われます」
えーーーーっ!? ミントが500歳っ?
「それは地味にショックだわ……」
私は打ちひしがれ、擦れた声で呟いた。そんな他愛のない話をしながらも、私たちは建物外に出た。
「この建物は残しておくべきじゃないわね」
お嬢様がそう言うと
「ファクトリーの銃は全て処分しました、破壊する程のこともないのでは?」
とヨシュアが答える。
確かに壊すとなると結構な労力が……。いや、ブランシェなら一撃か。するとブランシェが答えた。
「破壊するのは簡単ですが、恐らくこの建物内にあったファクトリーのエネルギーは地脈から取り入れてます。もし破壊によって地脈に影響を及ぼすと、里自体が滅びる可能性があります」
その言葉にみんなの視線がフィーナに集まった。白人狼族の里は黒人狼族に滅ぼされた。もし仇を討ちたいのであれば、今ここで建物を破壊すればその思いは達成される。
「白人狼族の里は滅びちゃったけど、アタイは黒人狼族に滅びて欲しいとは思わない。だってさ……そんな事をしても誰も戻って来ないからさ……」
「分かったわ。このまま行きましょう」
私たちはそんな会話を交わした後、建物を残したまま立ち去る事にした。
そして私たちは黒人狼族の里から出て、ダンジョンの入り口へ向かい始めたのよ。