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月の女神と夢見る迷宮 第二十話

シーナ、頑張ります!

 私たちは今ダンジョンの地下2階にいる。全員が地面に座り、休息をとっていた。ここまでの間に何度か魔物と出会ったが、どれもゴブリンとかコボルドのような低級の魔物ばかりで、大して苦戦することもなくここまでたどり着くことが出来た。もちろん知能がない相手ばかりなので、テイムも出来なかった。

 宝箱はあれ以来現れず、魔物を倒す事で出たドロップアイテムもポーションの類のみ。ヒーラーがヨシュアしかいない私たちにとってはそれでも有難いんだけどね。ほら、私たちは良いんだけど男性陣に役立つのだ。ミズキさんなんて役割的に一番ヒールが必要なのにヨシュアのヒールが効かないのはキツいからね。

 ヨシュアのヒールといえば、新たに判明した事がある。前々から気になってはいたのよね。ラパンやミントのような魔物でも、女の子ならヒール出来るのかどうか。

 結果はイエスだった。これは食事の用意をしているときに判明した。ラパンが私の手伝いをしていて火傷をしてしまったのだ。ラパンは嘗めときゃ治る的な事を言ったけど、試しにヨシュアにヒールをして貰った。するとちゃんと治療できたのだ。

 ラパンにヒールが効いたので、ミントにも試してみた。ミントの場合は魔法を使うと生命力を消耗するらしい。だから魔法を使いすぎると昏睡状態になってしまうんだそう。それで魔法を使った後にヒールをして貰ったところ「元気がもどったー!」との事。つまり魔物であっても女性なら、治療も回復も効くということだ。

ヨシュア

 この事が分かって、ヨシュアもようやく自信を持つことが出来たみたい。私が誘導役じゃなくなってから戦闘では役に立たないと悩んでいたからね。ミントの回復を優先して行う事で自分の役割を見つけたようだ。

 こうしてヨシュアが元気になったのは良いんだけど、今度は私が落ち込むことになってしまった。以前までは私が敵の誘導役だったのが、ラパンと交代になったからだ。

 ラパンは斥候役として理想的だ。人間より鋭い聴力で敵の気配を探り、暗闇でも敵を視認できる。更に敵を見つけたら誘導することも可能だ。足が速いから追いつかれる事はないし、いざとなったら光の剣で自衛する事もできるのだ。

 それに比べて私は戦闘では大して役に立たないし、偵察するだけの能力もない。得意の足も生かせないとなると、戦闘では完全にお客さんになっちゃうのよね。 今まではヨシュアも同じような立場だったから、何とか自分の気持ちを誤魔化せてたんだけど……

 「しーな……いない……わたし……いないよ……」
 「ままはいるだけで良いのー。元気になれるのー。」
 私の情けないという気持ちが伝わってしまったのだろう。ラパンとミントが口々に慰めてくれる。

 「なあに? 落ち込んでるの? シーナはテイムも出来るし鑑定も出来るじゃない? 私が変わって欲しいくらいよ」

 「でも、それって私自身の力じゃないし……」

 「特殊な能力も本人の力だと思うが?」
 「戦いに秀でてるだけが力じゃないよ。シーナがいなかったら、僕たちがダンジョンに挑むことはなかったろうね」
 「そうですよ。それにこれからテイム出来る魔物が出てくるかも知れないじゃないですか。いえ、きっと出てきますよ」
 みんなが口々にそう励ましてくれた。……そうよね。私は私。出来ることを精一杯やるしかないわよね。

 「ありがとうございます。私、頑張ります」
 泣きそうになるのを何とか堪えて、私はそう言い放った。

 「さて、そろそろ行くか」
 ミズキさんの号令で全員が立ち上がり、返事を返す。
 「んっ」
 「はいっ!」
 「オーケー!」
 「了解ですっ!」

ラパン

 兎の姿に戻ったラパンに索敵を任せ、私たちは歩き始めた。実は私たちが休憩していたのには理由がある。それは休憩中にミントを先行させてマッピングをしていたのだ。

 地下1階までの造りは知っていたミントだったが、流石に地下2階までは降りたことがなかった。その為ミントが先に進み、私がミントの視界を通してマッピングしていたのだ。

 ある程度マッピングできたらミントが帰ってきてラパンと交代する。ミントは私の頭の上で休み、索敵しながら進むラパンを追いかけながら私たちも進む。そしてマッピングされてない所に到達したら、またミントを先に行かせる。この繰り返しで、効率的かつ安全に探索を進めていけるのだ。私の休む暇がないだろうって? 戦闘中休んでるから良いのよ……うぅ……

 『しーな……てき……いた……』
 ラパンから脳内にメッセージが送られてきた。私は脳内会話でラパンに聞き返す。この位の会話を交わすくらいでは、融合する心配も恐怖もなかった。

 『数は? 今までに見たことのあるヤツ?』
 『ひとつ……みたことない……でも……つよそう……』
 ラパンも段々と会話に慣れてきているのか、最近は聞かれてない情報も送ってくるようになった。ホント優秀だよね。

 私はラパンの送ってきた情報を早速みんなに伝える。それを聞いて皆、戦闘準備に入った。みんなの準備が整ったところでラパンに指示を出した。

 『ラパン、誘導お願い。気をつけてね』
 兎形態のラパンの足なら並の魔物に追いつかれる事はないが、それでも一応の注意はする。
 『まか……せろり……』
 いつもの返事が返ってきた。

 前方からラパンが走ってくる。それを追いかけてくる1つの影。
 「あれはリザードマンか?」
 ライトさんの呟きに全員の緊張が高まった。

 「全員盾の後ろにっ!」
 ミズキさんが前に出て盾を構えた。ラパンがミズキさんを跳び越えるのと、リザードマンが盾に激突するのとは同時だった。

 
 
 

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