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月の女神と夢見る迷宮 第四十六話

旅の途中でのひととき

シーナ&ディアナ

 「ふぅ~、生き返るわ~」
 お嬢様が大きく息を吐きながら言った。
 「ホントですよね~。ミント様々です」

 今、私たちは入浴の真っ最中だ。ちなみにパーリへ向かう旅の途中であり、キャンプ中である。

 この旅の間、毎晩のようにミントが造る露天風呂に浸かることが出来ている私たち。思わず「極楽、極楽」と年寄り臭い言葉が出そうになってしまう今日この頃である。

 私たちが露天風呂を楽しんでいる間、男性陣は周囲の警戒に当たってくれている。そしてミントは傍らで一緒に湯船に浸かりながら、お湯の温度が下がると、追い焚きをしてくれるという至れり尽くせりの働きよう。温度センサー付き風呂焚き魔道具(魔シン)に成りきっている。

 そしてラパンはというと、少し離れたところで、耳をそばだてて危険の有無を探っていた。もちろん彼女もお湯に浸かってはいるんだけどね。

 「肉体的疲労と精神的疲労はヨシュアが回復してくれるけど、心の充足感は味わえないからねぇ……」
 「そうなんですよね。星空の下、露天風呂に入る満足感は何物にも代え難いですよね」
 
 そう言いながら私たちは星空を見上げた。安全性という観点から考えれば、夜間に無防備な状態になるのは良くないと思う。でも、そこは私もお嬢様と年頃の女の子。1日の終わりにその日の汗を流したいという願望が強いのだ。クリーンで体の汚れを取り除くだけじゃ味気ないからね。

 ちなみに、ラパンはそういうのに全然こだわりがない。決して風呂好きではないが、嫌いって訳でもないらしい。兎って水に入るのを嫌がるからラパンもダメなのかと思ってたんだけどね。カルム村の宿屋でも普通に入っていた。まぁ、服を着てお湯に浸かるのはご愛嬌だ。多分脱ぐのが面倒くさいんだろう。

ラパン

 ちなみに男性陣は入る時と入らない時と半々くらい。入らない時はミントにクリーンをかけて貰っている。ウチのパーティーはお嬢様と私、それとミズキさんの3人は貴族出身だ。でも、後の2人も基本衛生に気を遣ってくれてるので、好感度が高いんだよね。

 特にライトさんは、もしかしたら貴族出身なんじゃないかと思わせる時がある。そういうのって隠していても、ふとした時の立ち居振る舞いに出るものだから何となくね。

 ちなみに男性陣がお風呂に入る時も、ミントは随伴している。妖精には男女の区別はないみたいで、恥ずかしがったりする感情は持ち合わせていないようだ。

 「それにしても今日はラッキーだったわね」
 「あー、ポチロンの事ですか?」
 ポチロンとはフランカス地方で獲れる野菜の事だ。他の地方ではパンプキンとかカボチャとか呼ばれている。

 旅をする冒険者の食事は基本肉食である。肉体労働が多いこともあるだろうが、新鮮な野菜や果物等を普段から持ち歩くなんて事は出来ないからだ。野生の獣を狩って食べる。現地調達が基本なのである。

 だが、やはりそれでは栄養が偏る。だから時には立ち寄った村や町で、野菜や果物を調達する。たまにはパンを購入する事もある。それが不可能であれば、野山に立ち入って木の実などを収穫したりもする。

 そうやって出来るだけ栄養が偏らないように工夫するのだ。冒険者にとっては健康が何よりも大事だからね。何と言っても体が資本なんだから。

 食材の確保という面では、私たちのパーティーは他のパーティーよりも恵まれている。ミズキさんが持っていたマジックバックがあるからだ。旅立つ前に、カルム村で買った野菜や果物を、その中にいっぱい詰めて来た。今まで、野菜や果物不足に陥るような事がなかったのはそのお陰なんだよね。

 けれどもミントは別として、食べ盛りが6人もいれば、やはり消費する量も多い。特にラパンはお肉よりも野菜や果物を好むので、その手の食材を使った料理が欠かせないのよ。

 そろそろどこかで野菜類の補充しなければならないなと、パーティーの料理人である私が考えていた矢先の事だった。男性陣が森の中でポチロンをたくさん見つけて来てくれたの。

 「たまたま狩りの途中で見つけたんだよ」
 とミズキさんは言っていたが、野菜が枯渇しそうな事に気づいていたんだろう。狩りの最中も気にかけていたからこそ、見つけられたんだと思う。こういうところも、ウチの男性陣の良いなって思うところなんだよね。

ミント 

 「それにしても、ミントは凄いわね」 
 「ホント、私もビックリしました」 
 以前までは私とラパンが料理担当だった。ま、ラパンは自分が食べる野菜サラダとかをメインに作るだけで、私がメインのシェフだった訳だけど。

 それが最近になって、ミントの料理の腕がメキメキと上達してきているのだ。私の知識を共有してるとはいえ、これは本人の持って生まれた才能もあるんだろうと思う。

 炎の魔法でお肉を焼きながら、魔道コンロを使ってシチューを煮込む。そんな芸当まで熟せるようになった。私もウカウカしてたら、メインシェフの座を奪われるんじゃないかと思うくらいの手際の良さだ。

 え? お嬢様? いや、まぁ……人には向き不向きがあるから深くは……ね。そうそう、向き不向きと言えば、ヨシュアも料理が上手いのよ。たまに作ってくれるカレーとかいう料理は絶品だったわ。

 さて、こうした穏やかな時間も過ぎ去り、就寝時間が来た。冒険者にとっては何処でも眠れるというのは大切な事。普通の冒険者は、木にもたれたりハンモックを吊したりして眠るんだけど、私たちのパーティーにはチャイム謹製のテントがある。

 このテントがよく出来ていて、骨組みは木製なんだけど、軽くてコンパクトに収納可能。組み立てるのも簡単で、尚かつ中が広いという優れ物なんだよね。これが2組あって男女別で使っているの。

 基本夜の見張りは男性陣が交代で行ってくれるんだけど、時々は私とラパンのコンビで行っている。そんな時は普段話さないような話をするんだけど、それがまた楽しいの。

 主にお互いの生い立ちみたいな話とか、昔あった出来事とか。私の知らないラパンの事をいっぱい知る事が出来るから、良い時間を過ごすことができるの。その話の内容については、また別の機会に話すわね。

 あ、そうそう1つだけ。ラパンって私より年上だったのよ。ちょっとビックリしたわ。まぁ、歳の話をすれば、ミントが1番の年上になるんだけどね。

 さて、夜も更けてきたわ。おやすみなさい……

 


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