月の女神と夢見る迷宮 第二十一話
私にも苦手なモノがあるのよ!
ドスンッ!
「くぅっ!」
リザードマンの突進を受け止めたミズキさんが苦悶の表情を浮かべる。
「グォォォォォォォッ!」
ラパンを取り逃がした悔しさからか、リザードマンが吠えた。
リザードマン──トカゲのような顔をした魔物で、身体を固い鱗で被われている。しかもアーマーまで身に付けているから並の剣では傷もつけられないだろう。
ギルドの資料室で読んだんだけど、ダンジョンのボス部屋で遭遇する事もあるそうだ。つまりそれくらい強い魔物だということだ。
知能はそれ程高くないが、仲間同士で会話をするくらいは出来るんだそう。大抵は群れで行動するらしいんだけど、コイツは1頭だからはぐれだろうか?
「シーナさん、テイムはっ!?」
ヨシュアが焦ったように言うけど、それは無理な相談だ。私にも苦手なモノがあるのだ。私、爬虫類はダメなのよ……
そんな私の心を見透かすかのように、リザードマンも私の目を睨みつけてきた。とても友好的な態度には見えない。
盾の陰から飛び出したお嬢様が斬りつける。けれどやっぱり傷一つつけることが出来なかった。私も加勢に入ろうかと思ったけど、きっと足手まといになるだけだろうと思い留まる。
「ふっ、任せておけ」
ライトさんがボーンソードを頭上高く構えた。どこかの王室の方が「斬れなければ、叩き潰せば良いじゃない?」って言ってたように、ボーンソードならダメージが入るかも。そんな期待を持ってその動向を見守る。
ライトさんが大きく振りかぶり、ボーンソードをリザードマンの肩口に叩きつけた。
「ギシャーーーーーーーッ!」
リザードマンの肩からアーマーが弾け飛んだ。リザードマンが怒りの咆哮を上げ、ライトさんに向き直った。
リザードマンがライトさんに注意を向けた隙を逃さず、ミズキさんがシールドバッシュを仕掛けた。リザードマンがバランスを崩した瞬間を逃さず、ライトさんの一撃が再びボディーに炸裂する。
「バギャーーーーーーーッ!!」
リザードマンが苦しげに啼いた。リザードマンが後方に吹き飛んだのを見て、私はミントに指示を出す。
「ミントッ、ライトニングッ!」
「いえす、まむっ! いっけーーっ!」
ミントから放たれた閃光が、リザードマンを貫いた。
「ウギョョョョッ!」
リザードマンが電撃に撃たれ悶絶する。しかしタフなリザードマンは、懸命に立ち上がり再度こちらに近づこうとした。
「しゅーとっ!」
ピシュンッという音と共に私の背後から光の矢が飛んできた。その矢は私の傍らを掠め、リザードマンの額に突き刺さった。いつの間にか人型に戻ったラパンが、光の矢を放ったのだった。
「グゲゲゲゲゲゲゲッ!ウゴォッ……」
その矢が最後のトドメとなり、リザードマンは光の粒子になって空気中に消えた。
「す、凄かったですね……」
ヨシュアが緊張から解き放たれたように呟いた。
「ああ、強敵だったな……」
ライトさんもそれに続く。
「みんな、怪我はない?」
お嬢様がみんなを気遣ってそう聞いた。
「ミズキさん……?」
ミズキさんが腕を抑えて痛みを堪えているように見えたので私は声をかけた。
「最後のバッシュで少し痛めたみたいだけど、心配ないよ」
それを聞いた私は慌ててマジックバックからポーションを取り出し、ミズキさんの腕にかけた。
「んっ……ありがとう、痛みが引いたよ」
ミズキさんが私に微笑みかける。良かった、大したことなくて。私はホッと息を吐いた。
「あっ! 宝箱?」
ヨシュアの声に全員がリザードマンが消えた場所を見た。そこには前回見たのと同じような宝箱が出現していた。
「通路に宝箱が現れるのは珍しいね」
ミズキさんがそう言った。
宝箱は部屋の中の魔物を倒した時に現れる事が多いのだ。今回のリザードマンはボスクラスとは言え、通路を徘徊していた。そういう魔物はアイテムをドロップする事はあっても、宝箱をドロップする事はないはずなんだけど……
「ミミックって事はないわよね?」
お嬢様がそう言ったので、私はすぐに鑑定した。
「いえ、ちゃんとした宝箱です。ただ、罠がありますね」
「どんな罠だ?」
「ポイズンニードルと鑑定には出てます」
ポイズンニードルとは宝箱を開けると毒矢が飛び出し、開けた人間に突き刺ささるという罠だ。
「解除が必要なの?」
「いえ、この手の罠は……」
私は宝箱の後ろ側に回り、蓋に手をかけた。
「えっと、宝箱の前から退いてください」
私はみんなにそう言う。そして全員が宝箱の前から移動したことを確認してから蓋を開けた。
ビシュッ!
宝箱の前面から飛び出した矢が、前方の地面に落ちた。そう、毒矢は宝箱の前面からのみ発射されるのだ。故に通常の宝箱は部屋の壁ぎわに出現する。後ろ側から開けられないように。まぁ、壁ぎわでも横から開ければ問題ないんだけどね。
そんな訳で無事宝箱を開けた私の目に映ったのは……
「これは……剣?」
美しく光り輝く剣だった。
宝箱の中を覗き込んだミズキさんが
「シーナ、剣の鑑定をしてくれないか?」
と言った。それで私は早速剣の鑑定を行う。
『ミスリルソード GS-D』
私は鑑定の結果をみんなに告げる。
「呪われてはいませんね。最後の文字列の意味は分からないけど、ミスリルソードみたいです」
「み、ミスリルソードっ!?」
お嬢様が大声をあげた。お嬢様にしては珍しく取り乱した姿にみんなが驚く。でも無理はない。ミスリルと言えば貴重な金属。それで造られた剣は冒険者にとって垂涎の1品なのだ。ひっかかるのは最後の文字列なんだけど……
「造った職人の銘かも知れないな……」
ライトさんがそう呟いた。
「ね、ねぇ……持ってみてもいい?」
お嬢様が期待を込めた目をしてそう言った。
「「どうぞ、どうぞ」」
私とヨシュアの声が被る。
お嬢様がその剣を持つと、いきなりそれが光り輝いた。
「えっ!?」
驚くお嬢様。
「その剣、ディアナのこと、すきみたい」
それを見たミントがそう言った。
インテリジェントソード……そういう剣があると聞いた事がある。人格が宿っているとか知性があるとか言われ、とにかく癖の強い剣らしい。ただ、そういう剣のポテンシャルは極めて高く、持つ人を選ぶと聞く。選ばれた者の力が飛躍的に上がるという話と共に。
「この剣、私が貰ってもいい?」
お嬢様が上ずった声でみんなに聞く。その問いかけに
「「「「「「どうぞ、どうぞ」」」」」」
6人の声がダンジョンに響き渡った。
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