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月の女神と夢見る迷宮 第六十六話

新たなピース

カスロン

 「1つ1つ整理していこう。まずは……」
 ミズキさんの言葉でパーティー会議が始まる。場所は謁見の間に設営したテントの中だ。いつもは女性陣5人が寝ているテントなんだけど、流石に8人入るとやや狭く感じるわね。

 時刻は深夜0時を回った。本来ならシルヴィのような子どもは寝ている時間なのだが、シルヴィは人間ではない。元ゾンビのシルヴィにとっては、この時間帯こそが本来の活動時間なのだ。そしてミントに関しては、以前も言ったように睡眠が必用ない妖精属である為、パーティー全員が揃っている。

 「アルカスの町に疫病が起こったのはいつ頃の事?」
 まず最初に私がシルヴィに尋ねる。
 「確か……4年前の夏頃だったと思います……」
 シルヴィが9歳の時か。まだ大人の言うことを疑う事なんて出来ない年頃ね。

 「カスロンが領主になったのは……2年前か。パーリに呼ばれたのは疫病前だって言ってたわよね?」
 お嬢様がそう言った。
 ここで1つ目の矛盾。シルヴィは疫病の時、カスロンに回復ポーションを渡していた。ポーション代を払えない人たちに配るのだと言われて。

 「シルヴィが作ったポーションは、直接お父さんに渡してたのよね?」
 「いいえ、お父さんの部下の人がいつも取りに来て……。お父さんは忙しいからって」
 「最後にお父さんに会ったのはいつ?」
 「疫病が流行った年の……春? ううん、もっと前かも知れません。お父さん、ずっと忙しくて……家に帰れないってお母さんが……」

 そうなると、カスロンがパーリにいても不思議じゃない……か。でもルシフェリアはその事を知っていたのだろうか?

ミズキ

 「4年前、既にカスロンがパーリにいたと仮定しよう。彼はパーリの街のゴミ処理問題を解決する為、バーバラ都長の元で働いていた」
 ミズキさんが話を進める。
 「そうなると、シルヴィがポーションを渡していたのは誰かって疑問が残るわね」
 とお嬢様。
 「カスロンが部下を使ってシルヴィから受け取ったのか……あるいは……」
 「受け取ったのが別人だったか……だな」
 ライトさんが続けた。

 「ポーションに関してはバーバラさんの話にも疑問が残りますね」
 ヨシュアも加わった。

 そうだ。彼女は魔物との戦いで右手を失った後ルシフェリアと出会ったと言った。シルフィのポーションでそれが治ったとも。それはいつ頃の話なのか。少なくとも都長をしていた時の話ではないはずだ。

 「シルヴィ、もう1つ聞くわよ。バーバラさんと初めて会ったのはいつ頃の話?」
 私が聞くとシルヴィは
 「えーっと……疫病が流行る1年くらい前でしょうか?」
 自信なさげに答えた。
 
 シルヴィが8歳くらいの時に会ってるのね。その頃に回復ポーション(超)を作り上げちゃったのか……凄い才能ね。

 そしてバーバラさんは再び冒険者に戻り、風の噂でアルカスの疫病の話を聞いた……?

 「ねぇ、バーバラさんとお父さんってその頃に会ってる?」
 「お母さんと会ってるところだけしか見てないです」

 うぅ、頭がごちゃごちゃになってきたわ。

バーバラ

 5年前にバーバラさんがアルカスへ来たのよね。そして怪我を治して貰ったと。怪我の治った彼女は冒険者に戻り、どういう経緯かは分からないけど、その後パーリ都長になる。

 そして1年後カスロンがパーリに呼ばれ、バーバラさんの元で働き始める。その後アルカスで疫病が起こった。

 この時バーバラさんは、アルカスで起こった疫病の事を、冒険者に戻ってから風の噂で聞いたと言った。でも、この時彼女は既にパーリの都長だったはずだ。彼女が嘘を言っているのか、それとも単なる思い違いか。ここは確かめる必用があるわね。

 「そして、カスロンがパーリで働き始めて2年後、前領主の横領事件が発覚。その後任の領主にカスロンが選ばれた」

 この時彼を推したのはバーバラさんだった。だけど彼女は、カスロンがアルカスの疫病に関与していたのではないかと疑っている。それ故カスロンの様子を探るエクストラクエストを発動した。アルカスで疫病が流行った時期には既に、カスロンと共に働いていたにも関わらずだ。

 そしてスカベンジャースライムをダークスライムと言い替えて、冒険者たちに駆除させていたのも気になる点ではあるわね。

 「あー、わっかんない! これ以上考えても結論なんて出ないわよっ!」
 お嬢様がついにブチ切れた。でも確かに、パズルのピースが足りない。糸が繫がらない。

 バーバラさんの言うことが嘘だったと考えれば一応の筋は通る。でも、彼女の眼は真の怒りに満ちていた。カスロンの非道を許せないとでも言うように。それに、ルシファーがカスロンの行いを止めて欲しいと言っていたのも気になる。私には、どちらも嘘を言っていないように思えるのだ。

アンナ

 「やってるわね?」 
 その時テントの外から声がした。アンナさんだった。

 私たちは会議を切り上げ、慌ててテントの外に出た。今の話……聞かれてないわよね?

 「どうかしましたか?」
 私がそう聞くとアンナさんは
 「話そうかどうか迷ったんだけど……」
 「はい?」
 「バーバラさんの事。さっきは守秘義務で話せないって言ったけど……」
 「彼女がどうかしたんですか?」
 「あなたたちには話しておいた方がいいのかな……と思って。彼女ね……前の領主の娘なのよ。これは非公開の情報だから人には話さないでね」 
 アンナさんは声を潜めて言った。

 「そ、それは……でも、どうして私たちに?」
 「あなたたち、バーバラさんに言われて来たんでしょう?」
 「え……」
 「何となく分かっちゃうのよね。多分彼女はね、私がカスロンの側にいるのが気に入らないのよ」
 

 「前領主の横領を告発したのは私だから……」
 また、新たなピースが見つかった。

 
 

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