田舎の猫 街に行く 第二十二話
田舎の猫 奴隷を再生する
「貴女がラビィ?」おもむろに私は聞いた。
娘は不思議そうな顔をすると
「えっと……どこかでお会いしたことありました?」
そう答えた。
「いいえ、貴女のお友だち……ラフィから聞いたの。最近ここの奴隷商で『働き始めた』そうね?」
そう言うと彼女は納得したというように笑顔を浮かべた。
「ラフィのお知り合いですのね。ラフィはお元気ですの?」
そこまで彼女が言ったところで奥から小太りの男が出て来た。
「ラビィ、どうした?」
「あ、マスター。私の友だちの知り合いが訪ねていらしたのですわ。」
男に対して気さくな口調で彼女は言った。
「おや、お客さんかな?あ、君は……」
小太りの男は、人攫いの男を見て口をつぐんだ。どうやら彼が奴隷商人のようだ。私とラビィがいたら話がしにくいだろうと思い、取り引きの交渉を男達に任せ、私はラビィを店から連れ出した。
まぁね、二人とも非合法なことに手を染めてるからさ、仕方ないよね。ラビィはその事を知らないはずだからさ、奴隷商人もそういった話を聞かせたくはないだろう。
店の裏手に行くと私はラビィに話し始めた。
ラフィと出会ったこと。ラフィは貴女が奴隷商に『売られたと思い込んでいる』こと。貴女を救い出す為に人攫いの男の母親に『呪い』 をかけたこと。
そこまで話すとラビィは真っ青になった。
「何故ですの。何故ですの。何故ですの~っ!? 何故ラフィは私が売られたと思い込んでるんですの~~っ!?」
そう、彼女は奴隷商に売られた訳ではない。自らの意思で働き始めたのだ。今朝人攫いの男と話したときに、私はその事を聞いたのだ。
ラビィがラフィに着いて来たのは、元々どこかで働こうと思っていたからだった。そしてちょうど旅の資金が尽きかけた時に、人攫いの男と出会った。それで働き口として奴隷商を紹介され、働き始めたというのが事の真相らしい。それが1週間前のことだ。
ラフィは奴隷商の元で住み込みながら、奴隷たちのお世話をしていたとのこと。兎人は兄弟姉妹が多く、長女であるラフィは彼らのの世話をするのに慣れていたこともあって、仕事にはすぐに馴染めたらしい。生来の明るさもあって、最近では受け付けの仕事も任されていたのだそうだ。
つまり彼女は自分の意思で働き始めたのだ。問題は何故それがラフィに伝わっていなかったかという事である。
「おかしいですわ。おかしいですわ。おかしいのですわ~っ。私はラフィに手紙を残したはずなのですわ~~っ!?」
ラビィはパニックを起こしている。問題の解決は本人同士にさせた方が良いだろうと考え、私はインドアからラフィを放出した。
ラフィはインドアから放出された瞬間、無理矢理インドアに収納されたことにブチキレていた。
「アンタ、何しやがんだっ!」
まぁ、いきなりインドの中に収納されたんだ、そうなるわな。ちょうど奴隷商に売り飛ばされるって話をしてた時だったし、攫われたと思っても仕方ないよね。
「ラフィ~っ!お元気そうで何よりですわ~!」
ラビィがそう声をかけるとラフィは驚いた。そして叫んだ。
「ラビィ、無事かっ? まさか、コイツに買われたのかっ?」
ラフィは私がラビィを奴隷商人から買ったのではないかと疑っていた。
「嫌ですわ。私(わたくし)奴隷ではありませんわよ」
その言葉を聞くと、ラフィは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。いや、私も実際鳩が豆鉄砲を食らうところは見たことないんだけどね。前の世界の慣用句ってヤツだ。
「ナ、ナンダッテー!」
ラフィに先んじて、私は前の世界でお約束であるフレーズを言ってやった。ふふん、勝った。『あぁ、大人げない。情けない……』とキャティの声が聞こえたのはきっと気のせいだ。
そこからは二人で話させた方が話が早いと思い、私は席を外して男達の元に戻った。
男達のところに戻ると話はほとんど済んでいて、早速奴隷たちに会うことになった。まず四肢欠損がある等、ワケありで売れ残っている奴隷達に面通しする。
ラビィがきちんとお世話をしていた為か、そういう奴隷達も比較的小綺麗にしていた。ラノベなんかだと躰の一部が腐りかけていたり、死にかけていたりする奴隷が殆どだけど、そんなことはなかった。
購入するのは男だけなのだが、女の奴隷たちも再生するつもりだった。神でもない私には全ての者を救うことはできないが、せめて手の届くところは何とかしてやりたいから。そして私には比較的容易にそれができるのだからね。ただまぁ私も聖人ではないし、それなりの見返りを交渉するつもりだったけどね。
奴隷商人とその事について話すと、女の奴隷たちを治して貰えるなら男たちの方はほぼ無料で良いと言う。このまま置いておいても経費がかさむだけなので、それならいっその事全員引き取って貰った方が奴隷商人にとってもありがたいとのこと。健康であれば、平和な世界では女の奴隷の方が需要があるからね。詳細は控えるが。
一応奴隷たちにも再生する前に了承を取った。再生された後、どのような扱いをされるか教えておくのがフェアというものだし、覚悟もできるだろう。すると全員が一様に喜びの声を上げた。男たちは当然のこと、女たちもだ。
このまま座して死を待つよりは、もう一花咲かせたいというのが彼女たちの言い分だった。生まれつきの障がいで今までそういった経験をしてこなかった娘は、自分が必要とされる喜びを味わえるかも知れないことに、歓喜の涙を流してさえいた。きっと幼い頃から邪魔者扱いされてきたんだろうね。まぁ本人たちが喜んでこれからの奴隷ライフを歩めると言うなら私も本望だ。
私は全員の前に立つと『リカバリー』を唱えた。